42.ユーリさんとそのお友達が遊びにきてくれましたよ!

「これで儂からは以上じゃ。庭の模様替えをしたいときや拡張をしたいときは、遠慮なく相談してくれ」

「そうさせていただきますね。ありがとうございます、ハイネさん」


 引き継ぎもすべて終了したので、ハイネさんはこれで帰るそうですよ。

 なんでも、ほかのギルドから依頼されているギルドホームの改装作業があるのだとか。

 ハイネさん、結構忙しい人なんだよ。


「……あら、リーンちゃん。よかったわ、庭にいたのね」

「あ、ユーリさん。おはようなんだよ。なにかあったのですか?」

「おう、ユーリか。この時間からログインとは珍しいのう」

「用事があったからね。リーンちゃん、このあと暇かしら?」


 このあとですか……。

 やるべきことと言えば、星兎のグルーミングくらいしかありませんね。

 昨日もバタバタしていました。

 それに、せっかくなら自分の庭が完成してからにしてみようと思っていたのでまだしてないのですよ。


「このあとの用事は星兎のグルーミングくらいしか入ってませんね」

「それなら大丈夫ね。私のフレンドがあなたに会ってみたいって言っているんだけど、いいかしら?」

「ボクにです? なんでまた」

「初期パートナーにライトニングシーズーを選んだっていうのが引っかかったみたいね。彼女、それ系に詳しいから」


 むぅ、なにかと話題になりますね、初期パートナーの話は。

 まあ、それくらいなら問題ないですし、ユーリさんのお友達というのも会ってみたいのですよ。


「わかりました。ボクは大丈夫ですよ」

「了解。星兎のグルーミングが終わるのって三十分もあれば十分かしら」

「十分だと思いますよ。余裕をみても一時間で終わると思います」


 初回ということを考えても、ウサギの大きさですしそんなに時間はかからないでしょう。

 お待たせしても悪いですし、さっくりやってしまうんだよ。


「それじゃ、一時間後くらいにフレンドを連れてまたくるわ」

「はいです。あ、それと噴水、ありがとうございました」

「気にしないで。それじゃあね」

「儂も失礼するぞい」


 ギルドの玄関口へと去って行く二人を見送り、ボクは再び自分の庭に入ります。

 さて、星兎をグルーミングしなくてはいけませんね。


「せいとー、こっちに来るのですよー」


 噴水のところから呼びかければ、星兎がぴょんぴょんとやってきてくれます。

 この子もやっぱりお利口さんですね。


「さーて、グルーミングのお時間ですよー。さらにふわもこボディになるためがんばりましょうねー」


 ボクは斬魔さんからもらったグルーミングセットからブラシを取り出します。

 星兎も逃げ出すようなことはせずに、ブラッシングを受け入れてますね。

 ときどき、気持ちよさそうに身をよじりながら、全身のブラッシングは終了しましたよ。


「さあ、次はシャンプーの時間ですよ」


 シャンプーを取り出しても星兎は逃げ出しません。

 むしろ、望むところとばかりにでんと腰を落ち着けていますよ。

 シャンプーが終わったら噴水のお湯で洗い流します。

 このときはさすがに少しいやがりましたかね。

 まあ、逃がしはしないのですが。


 シャンプーまで終わればドライヤーの魔法で乾かしてあげればグルーミング完了ですよ。

 試しに星兎のふわもこ具合を確認しましたが、とてもいい感じに仕上がっていましたね!


「ワフワフ」

「うん? ……お前たち、なにを整列しているのです?」


 袖を引っ張られたのでそちらを見てみると、シズクちゃん、黒号、プリムの順に並んでいました。

 はて、どうしたのでしょうか?


「ご飯は昨日の夜にあげましたよね?」

「ワフワフ」


 シズクちゃんは首をぶんぶん振ってボクの言葉を否定しているみたいです。

 はて、ご飯でもないということは、ひょっとして……。


「お前たちもグルーミングしてほしいのです?」

「ワオン!」


 どうやらこれが正解だったみたいですね。

 でも、これからこの子たちのグルーミングまで始めると、約束の時間まで間に合わないんだよ。

 あと二十分くらいしかありませんし。

 それにグルーミングはそんなに頻繁にするものじゃないそうですからね。

 どこを落とし所にしましょうか。


「……時間もありませんし、ブラッシングだけですよ?」

「ワン!」


 ブラッシングしかできなくても満足みたいなので助かりますよ。

 そういうわけですので、シズクちゃんたちも順番にブラッシングしてあげます。

 最近戦闘続きでしたので、黒号やプリムは少し毛先がほつれてきたのがわかりますね。

 時間があるときにカットしてあげましょうか。


「……さて、そろそろ約束の時間なんだよ」

「ワンワン」


 庭の中には家主の許可がないと入れない仕様らしいですし、外に出て待っていましょう。

 そういうわけで外に向かおうとすると、シズクちゃん、黒号、星兎がついてきましたよ。

 プリムは残ってキックの練習を続けるみたいですね。


「お前たちついてきてくれるのですね。それでは一緒に行きましょうか」

「ワオン!」

「ワフワフ」

「プー」


 自分の庭にパートナーを呼び出していると、コールしなくてもパーティに組み込めるようです。

 ついてきてくれた三匹をパーティに入れて早速庭の外へと向かいますよ。


「……あ、リーンちゃん。待ってたわよ」

「あれ、ユーリさん。お待たせしましたか?」

「待ったと言うほどでもないけどね。二分程度かしら」


 それは悪いことをしたんだよ。

 もう少し早く出てきた方がよかったですね。


「まあまあ、ユーリ。おしゃべりしてたらすぐだったじゃない」

「それもそうね。あ、リーンちゃん。こっちが私のフレンドね」

「初めまして、リーンちゃん。私はユーリのフレンドで……」

「プープー」


 ユーリさんのフレンドが自己紹介してくれているのですが、その足に向かって星兎が身体をぐりぐりと押しつけています。

 なにをしているんでしょうね、この子は。


「星兎、お客さんにそんなことをしちゃダメなんだよ」

「ああ、大丈夫よ、リーンちゃん。ファーラビットが身体をこすりつけるのは、甘えたいっていう感情表現だから」


 なるほどです。

 勉強になりますね。


「星兎ちゃんっていうのね。抱っこしても大丈夫かな?」

「プー」


 フレンドさんは星兎に一言断ってからゆっくり抱きかかえましたよ。

 なんだか、とっても手慣れた動作ですね。


「……うわぁ、すごくもこもこになってる。しっかり手入れされているわね」

「当然なのです。さっき、きっちりグルーミングしたのですよ」

「なるほど。それで、甘えたがってたのね」


 うん?

 グルーミングと甘えたがるのにどういう関係があるのでしょう?


「ファーラビットはね、毛並みがいいと自慢したがるの。だから、お手入れを欠かさずにしてあげれば愛情度はすぐに上がっていくし、とっても人なつっこくなるのよ」

「……そんな性質があったのね。昨日テイムしたばかりのファーラビットがこんなになつく理由がわかったわ」

「……昨日テイムしたばかりでこれはすごいけどね」


 なんだかよくわかりませんが、星兎が特別なのはよくわかりました。

 たとえテイムしたばかりでも、しっかりお手入れしてあげればなついてくれるのですね。


「それより、自己紹介が途中になっていたわよ」

「あ、ごめんなさい、リーンちゃん。私はユエ。ユエ=スプリングハートって言うの。よろしくね」


 ユエさんですか。

 ……はて、どこかで聞いた、ついでにいうと最近みた名前ですが……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る