9.見知らぬ先輩さんと知り合ったんだよ!

 振り向いた先にいたのは、見知らぬお姉さんでした。

 着ている服もなんだかきれいですし、おそらく先輩プレイヤーさんですね。


「お姉さんなにか用事なんだよ? ボクたちはこれからモフモフを捕まえに行かなくちゃいけないんだよ」

「いや、モフモフを捕まえに行くんじゃなくてレベル上げだからね?」

「お姉ちゃんらしいなぁ」


 む、ボクにとってはレベル上げのほうがついでなのですが……まあ、仕方がないでしょう。

 どちらでも一緒なわけですし。


「そんなに急がなくても大丈夫よ。モンスターは大量にいるわけだし、いなくなったりしないわ」

「それはそうですが……だからといって、ここでのんびりしていてもいいわけじゃないんだよ」

「それもそうよね。……晩ご飯の時間も迫ってるわけだし」

「うわ、本当だ。あと一時間ちょっとで晩ご飯だよ、お姉ちゃん」


 なるほど、それは急がないといけませんね。

 ……というか、それは急いで間に合うのでしょうか?


「ふたりに質問なのですが、一時間でどの程度のモンスターをモフれるのですか?」

「……多分難しいんじゃないかしら」

「そうだね。狩りはおとなしく晩ご飯のあとにして、まずは装備を見直したほうがいいかも」


 よくわかりませんが、一時間では時間が足りないのですね。

 それなら仕方がないんだよ。


「狩りに行く話は大丈夫そうね。私の話を聞いてくれる時間はあるかしら?」

「話によりますね。そもそも、あなたは誰なんですか?」


 サーシャが思いっきり警戒した質問を返しているんだよ。

 そんなに怖がらなくても大丈夫な気がするんだけどな。


「そういえば自己紹介がまだだったわね。私はユーリ=ハイフィール、ユーリと呼んでもらってかまわないわ」

「それで、ユーリさんはどうして私たちに声をかけてきたんですか?」

「あなたたちというか、そっちのライトニングシーズーを連れた女の子にね。ライトニングシーズーがパートナーだと、この先苦労すると思って」


 む、このお姉さんもそう言うのですね。

 行く先々で同じような評価なんだよ。


「大丈夫なんだよ。シズクちゃんにはサンダーボルトという強力なスキルがありますからね!」

「その強力なスキルが問題なの。サンダーボルトは確かに強いんだけど、強すぎてこの辺りのモンスターじゃ一発なのよ。それじゃあ、テイムもコントラクトもできないわ」


 あ、言われてみればそうなんだよ。

 テイムをするには弱らせたほうがいいはずだって習ったばっかりですね。


「……それでも、物理攻撃で頑張ってもらえば……」

「ライトニングシーズーの初期物理攻撃力はモンスター最弱のファーラビット並よ。初期段階ではかなり苦労することになるから確認メッセージも出るはずなんだけど、確認しなかったの?」

「そんなのシズクちゃんのかわいさに比べればなんともないんだよ!」


 この世界でかわいいとモフモフに勝るものなんてなのです!

 そう言うと、サーシャもアプリも呆れた顔でため息をついていますよ。

 なんですか、その反応は。


「……まあ、この子……リーンが足りない分は私たちがなんとかフォローしますから」

「まあ、お姉ちゃんならこうなる可能性も考えてたしね」

「……元からそういう子なのね。それなら、勧誘する意味もあるというものだわ」

「勧誘? なんだよ?」


 はて、宗教かなにかでしょうか。

 ゲームの中でまで面倒なことは避けたいのですよ。


「ええと、私たちは初心者支援のギルド『瑠璃色の風』を運営しているのよ。そこであなたたちのような初心者プレイヤーに対して支援をしているの」

「『瑠璃色の風』ですか。……確かに、そのギルドは存在しているようですね。でも、あなたがそのギルドメンバーだとは限らないのでは?」

「ギルド勧誘を受けてもらえればわかるわよ。まあ、その前にいろいろ説明をしたいところではあるんだけど」

「説明なんだよ?」

「まあ、難しい説明じゃないわ。うちのギルドの規則とかそういうものよ。……ところで、リーンちゃんだったかしら。私もテイマーなんだけれど、育ったパートナーに興味はない?」


 育ったパートナーですか!

 それはとっても見てみたいんだよ!!


「とっても興味がありますね!」

「それじゃ、少しだけ見せてあげるわ。ここじゃ他人の邪魔になるしね」

「……あまり他人がいませんけどね」

「その辺はマナーの問題よ。コール、リンド」


 ユーリさんが呼び出したのは、ドラゴンでした。

 サーシャのプチドラゴンとは違って人が乗っても大丈夫なサイズですよ。


「うわぁ、ドラゴンだ!」


 ドラゴンに一番反応したのは妹のアプリでしたよ。

 アプリは従魔系の職業ではないのですがね。


「あら、あなた。ドラゴンに興味があるの?」

「やっぱり、ファンタジーって言えばドラゴンは定番じゃないですか。サーシャさんからプチドラゴンは見せてもらってますけど、成長するとこんな感じになるんだ……」

「そうね。人を乗せて飛ぶことも可能よ。……残りふたりはあまり反応しないわね」

「ボクは鱗のすべすべ感よりモフモフを所望するんだよ」

「私は自分のプチドラゴンを育てますから」

「なるほどね。それじゃあ、次のパートナーをお見せしましょうか。もうドラゴンを帰して大丈夫かしら?」

「はい、ありがとうございました!」


 ドラゴンを興味津々に眺めていたアプリが離れてドラゴンはリターンで帰されていきますよ。

 そして次に呼び出されたのは……おお、グリフォンですよ。

 それも、見た限りではとてもふわふわの毛質に仕上げられているじゃないですか!


「この子はグリフォンのエメラルダね。……さっきとは違ってすごい反応しているわね」

「ユーリさん。この子に触っても大丈夫なんだよ?」

「ちょっと待ってね。……優しくなら大丈夫そうよ」

「わかったんだよ。……おお、やっぱり見た目どおりのふわふわな毛並みなんだよ」


 グリフォンの毛並みは硬そうなイメージだったのです。

 でも、この子はとても柔らかいのですよ。


「お手入れには気をつけているからね」

「なるほど。お手入れはやっぱり重要なのですね」

「可能なら、ね。それで、私たちのギルドに来てもらえるかしら」

「はい! 是非ともお邪魔したいのですよ!!」


 こんなかわいい子たちがいるのでしたら、行かなくてはなりませんね。

 そんなボクの様子を見て、サーシャとアプリもやれやれという表情で頷いてますよ。


「リーンがこの様子じゃ仕方がないか」

「まあ、お姉ちゃんだからね。悪い人じゃないようだし、一度ついて行ってみよう」

「じゃあ、決まりね。あまり時間もないみたいだし、急いで行きましょう」


 そういえば晩ご飯の時間が迫っているのでした。

 急いで移動なのですよ!

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