5.まずはふたりと合流なのです!

「おお、これは……」


 客船がアインスベルに到着して降船してみると、想像以上に美しい街並みが広がっていたんだよ!

 これが現実じゃなくてゲームだなんて信じられませんね!


 周りを見渡していると、視界の端にひとつのシステムメッセージが表示されたんだよ。

 なになに……『オープニングクエスト:テイマーギルドで講習を受けろ』ですか。

 正直めんどくさいのですよ。

 そんなことより、新しいモフモフを探しに行きたいところなのです!

 そのためにも、まずは沙樹ちゃん……こっちではサーシャでしたね、彼女と妹のふたりを見つけなければ。


 さて、ぐるっと辺りを見てみますが、それらしい人影は見当たりませんね。

 サーシャは狐獣人だと言っていましたが、狐獣人がそもそもいません。

 杏は……確かアプリという名前でしたね、オレンジ色の髪と言っていましたが該当する人物はいなさそうですよ。

 これは困りましたね。


『あ、やっときたようね。響……じゃなくてリーン。ずいぶんのんびりチュートリアルを受けていたじゃない』


 ほ!?

 いきなり頭の中に声が聞こえてきましたよ?


『ああ、ダイレクトチャットの使い方がわからないのね。そのまま、頭の中で考えてもらえれば会話が通じるわ』

『おお、そうなのですか。沙樹ちゃん……ではなくてサーシャでしたね』

『ええ、そうよ。まったく、何度ダイレクトチャットを申し込んでも対象エリア外だってなるし。なにをしてたの?』

『なにって、パートナーの容姿を決めていたんだよ! こんな大事なことを適当にできるわけないじゃないですか!』

『……理解したわ。とにかく、女神像広場に来て。アプリはもうランサーギルドに行って講習を受けているはずよ』


 なんですと?

 お姉ちゃんを待てないとは、妹がいのない子なんだよ。


『了解なんだよ。到着したら今後のことについて話し合うんだよ』

『とりあえず講習は受けないといけないけどね。その後どうするかは考えないといけないから了解よ。それじゃあ、早く来てよね』


 頭の中に響いていた声が聞こえなくなったので、ダイレクトチャットとやらは終わったのでしょう。

 それにしてもさすがゲームですね、離れていてもダイレクトでお話ができるとは。


 それでは女神像広場に向かうことにしましょうか。

 ……って。


「女神像広場ってどこなんだよ……?」


 サーシャは大事なことを伝え忘れていました。

 女神像広場に行くにしても、道順がわからなければたどりつけないんだよ!

 サーシャ……沙樹ちゃんにしてはどこか抜けてますね!


「……女神像広場、女神像広場……うーん、適当に歩けばたどりつくのかな?」

「ワフン……」


 外から見た限りではかなり広い街のような気がしましたが、適当でも見つかるものでしょうか?

 本当に困ったものなんだよ!


「お、そこの嬢ちゃん。今日始めたのか?」

「うん、ボクのことなんだよ?」


 行く先がわからず大通りをうろちょろしていたら屋台のお兄さんに声をかけられましたよ。

 現地人さんかと思っていましたが、どうやらプレイヤーさんのようなんだね。


「おう、嬢ちゃんだ。こんなところを初心者装備でふらついているってことは、客船オープニングでスタートした初心者だろう?」

「客船オープニング? ってなんなんだよ?」


 なにやら知らない言葉が出てきましたね。

 どういう意味なのでしょうか。


「ああ、まずそこからか」

「そこからなんだよ」

「まず、このゲームなんだが、オープニングが何パターンかに分かれてるんだ。お嬢ちゃんが体験した客船に乗ってアインスベルまでやってくるってのもパターンのひとつだな」

「そうなのですね。ほかにもパターンがあるのです?」

「ああ、何種類かあるが……それよりも女神像広場に用事があるんじゃないのか? 女神像広場って言いながらうろうろしていたが」


 はっ、そうなのですよ!

 急いで女神像広場に行かなければ!


「そうなのでした!! お兄さん、女神像広場はどうやっていけばいいんだよ?」

「ああ、女神像広場ならこの坂道を上ると大きな通りがあるからそこをまっすぐいきゃあいい」

「この坂道を上って大きな通りをまっすぐなのですね! ありがとうなんだよ!」

「おお。そうだ、俺んとこのたこ焼き持って行け」

「うん?もらっちゃっていいのです? お金はないんだよ?」

「いいっていいって、これも初心者支援ってな。とりあえず十個ほどあればしばらく大丈夫だろ。ほれ、熱いうちにインベントリにしまっておきな」


 お兄さんが熱々のたこ焼きを渡してくれたんだよ。

 インベントリへのしまい方も聞いて、きちんとしまいました。


「ありがとうなんだよ。……ところで、この子も食べられるご飯ってなにかないのかな?」

「この子……ってシーズーか。ってことはライトニングシーズーだろ? またけったいなパートナーを連れてるな。お嬢ちゃんサマナーかい?」

「テイマーなのです。シーズー、かわいいんだよ」

「……確かにかわいいがなぁ。まあ、個人の判断は尊重すべきか。ライトニングシーズーだったら雑食だからなんでも食べるぞ。ただ、好きなのは確か果物系のはずだから用事が済んだら市場に行って果物を買い込んでおくんだな」

「情報ありがとですよ。それじゃあ、失礼しますね」

「おう、よき旅路を祈ってるぜ」


 お兄さんもなんだかちょっとかっこいいことを言ってくれますね。

 なにか流行りの挨拶なのでしょうか?


 ともかく、教えてもらったとおりの道順を進んでいくと巨大な女神像が建っている広場に出ましたよ。

 ここが女神像広場のようですね。

 さあ、サーシャはどこにいるのかな……?


「ようやく来たようね。リーン」

「あ、サーシャですね。お待たせしたのです」


 女神像付近のベンチに座っていた狐の耳付き女の子がボクの名前を呼びました。

 この子がサーシャで間違いないようなんだよ。

 なんとなく、雰囲気もでてますし。


「その子があなたのパートナーね。……時間をかけただけあってかわいいわね」

「でしょう? 自慢の子ですよ!」

「はいはい。ともかく、アプリをあまり待たせないように、私たちも講習を受けに行くわよ」

「あ、待つのですよ、サーシャ」


 これからのことについて話したいのにサーシャはさっさと歩いて行きましたね。

 仕方ないのでついて行くとするんだよ。

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