24.月光兎は静かに佇む

 さて、というわけでやってきました、南の湖。

 あのあと詳しく居場所も聞いてみたのです。

 なんでも、東側に回り込むと浅瀬があって、そこを通って湖の島まで渡れるらしい。

 そこに目的のウサギさんはいるとか。


 その島から出てくることは基本的にないそうです。

 なので、村としても放置しているらしいですね。

 触らぬ神に祟りなしとはこのことでしょう。

 ボクたちはさわりに行きますけどね!


「ふむ、この浅瀬のところから先はボクしか入れないようですね」

「そのようね。私たちが入ろうとしても、謎の壁に邪魔されるわ」

「ゲームでソロ仕様だとよくある話だねー。お姉ちゃん、がんばってきてねー」

「負けたらアインスベルに強制送還されるらしいわ。そのときはあちらで合流しましょう」

「わかりましたよ。それでは行ってきます」


 見えない壁は、ボクとシズクちゃん、黒号には関係ないようですね。

 このまま、浅瀬を通って島まで行ってしまうんだよ。


 そして、たどり着いた島は、遠目でみたときよりも小ぶりな島だった。

 半径三メートルくらいの円状ですかね?

 さて、ウサギさんはどこにいるのかなー?


〈ほほう。ここに足を踏み入れるとは、吾との勝負を望むか〉


 周囲を見渡していると、突然頭の中に声が響いてきたんだよ。

 これは……なんでしょうね?


〈どこを見ている? 吾はここだ〉


 なんとなく声がするほうを向いてみると、そこには額に三日月マークのある一匹のウサギさんがいましたよ。

 ただ、見た感じファーラビットとは違う種族のようですね。


「こんにちはなんだよ、ウサギさん。ボクはリーン、この子がシズクちゃんでこっちが黒号です」

「ワオン」

「ワフン」

〈ほう。吾の前で自己紹介とは気長なやつだ。吾と戦いに来たのではないのか?〉


 戦いにですか。

 ちょっと違いますかね。


「戦いにではないのですよ。あなたをテイムしたくてやってきたのです」

〈同じことではないか。吾を手懐けたければ相応の実力を示してもらおう〉

「うーん、戦う以外に道はないんです? おいしいご飯なんかも用意してあげられますよ?」

〈くどい。吾を従えたくば相応の力を示せ〉


 うーん、これはどうにもならないですね。

 仕方がないので戦闘準備と行きましょう。


「しようがないんだよ。シズクちゃん、黒号、いつもどおりに行きますよ」

「ワンワン!」

「オン!」


〈準備はできたようだな。吾は斬脚のプリムと呼ばれし者。この蹴撃、とくと味わえ!〉


 あのウサギさんの名前はプリムというのですね。

 そんなことより、ウサギさんが飛び込んできて後ろ足でキックしてきたんだよ。

 その足はものすごい音を立てていて……。


「ウガゥ!」


 ボク狙いだったその攻撃は、黒号がブロックしてくれたんだよ。

 でも、その代わりに黒号がかなりのダメージを受けてしまったね。

 急いで回復してあげないと!


〈ほう、身体をはって主を守るか。そういう姿勢は好ましいな。だが、この先も耐えられるかな?〉


 ウサギのプリムが攻撃を仕掛けてきますが、黒号は防戦一方です。

 足を振りきらせないようにして威力をそいでいますが、それでも威力が大きいですね。

 うう……ここはシズクちゃんに頼むしかないですかね。


「シズクちゃん、サンダーボルトです!」

「オンオン!」


 シズクちゃんが呪文を唱えて魔法を発動させます。

 そして、落雷がプリムを襲います。

 ですが、プリムは落雷をよけてしまいました!


〈ほう、サンダーボルトの魔法か。さすがにそれを受けてしまっては、負けを認めるしかなくなるからな〉


 むむ、つまり、サンダーボルトが当たればこちらの勝ちなのですね。

 サンダーボルトが次に使えるのは三十秒後。

 それまで、なんとか黒号にがんばってもらいましょう。


〈サンダーボルトが使えるならば、あちらを優先したいところだ。しかし、黒いのがそれを許さない、か〉

「ワフゥ!」


 あちらの戦いもヒートアップしてきました。

 黒号は防戦一方なりに相手の動きを制限していますね。

 プリムはそんな黒号をうまく出し抜こうとしていますが……うまくいかないみたいなんだよ。

 そんな戦いが続くこと三十秒、ついに次のサンダーボルトが使えるようになりました!


 問題は、このサンダーボルトを外せば次がないと言うことですね。

 シズクちゃんのMPは問題ないのですが、ボクのMPが切れそうなのです。

 ボクのMPが切れれば黒号の回復が止まってしまい、なし崩し的に負けてしまうんだよ。

 ……さて、どうやってサンダーボルトを直撃させましょうか。


「あ、そうだ。いい考えがあるんだよ!」


 ボクの脳裏にひらめいた作戦、これならプリムの動きを少しだけ封じられるはずなんだよ!


「シズクちゃん、ボクから少し離れていてくださいね。黒号、合図をしたらこちらに戻ってくるのです!」


 それぞれに指示を出し、準備は万全なんだよ。

 さあ、決着をつけましょう!


「黒号、こっちに退くのです!」

「ワオゥ!」

〈ふむ、それは悪手ではないか?〉


 黒号を追ってプリムもついてきます。

 そして、距離がある程度つまったとき、プリムが一気に駆け出してボクに攻撃を仕掛けてきたんだよ!

 さあ、ここまではボクの読みどおりですね!


「黒号、プリムの後ろ足にかみつくのです!」

「ワフゥ!」

〈そんな見え透いた手にはかからんよ〉


 プリムは空中で姿勢を変えて、黒号のかみつきから逃れます。

 さあ、ここからが本番ですよ!


〈こちらの体勢は崩れてしまったが、まあ問題ないだろう。これで決めさせてもらうぞ〉

「ええ、これで決めるのですよ!」


 プリムの蹴りをガイルさんからもらった盾でがっちりガードします。

 すると、盾が一撃でぐっしゃりと曲がってしまいました。

 ですが、そこは気にするところではないのですよ。

 盾を蹴り飛ばして勢いの減ったプリムの足をしっかりと抱きかかえてしまうのです!


〈なに!? そうきたか!〉

「そういうことなんだよ! さあ、シズクちゃん、サンダーボルト!」

「ワオーン!!」


 シズクちゃんによる二発目のサンダーボルトは、きれいにプリムを捉えました。

 ボクも落雷の範囲内にいましたが、このゲームは【ふれんどりーふぁいあ】とやらがないらしいので大丈夫なのです。

 さて、これでクエストクリアですかね!

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