50.突発イベントでアント狩りですよ!

「突発イベントってなんなんだよ、サーシャ!?」

「ちょっと待ってね……あった。ある程度ランダムなスパンで発生するイベント戦闘のことね。今回の場合、多分クイーンアントとやらを倒せばいいと思うんだけど……」

「なるほどです。さて、どうしたものでしょう。周囲が光の柵で囲われているのですが」

「多分逃げられないってことだよね、お姉ちゃん」

「そうね。よりにもよって、私たちの周囲がクエスト発生ポイントだわ」


 さて、ちょっと困ったんだよ。

 こんなところでイベントに引っかかるとは思ってもみなかったのです。

 でも、このクエスト名、どこかで聞いたことがあるような……。


『リーンちゃん、いま大丈夫かしら?』


 これからどうしたものか、と考えているとユーリさんからチャットが飛んできました。


『はい、大丈夫なのです。どうかしましたか?』

『いまクイーンアントのクエストが発生しているけど、それに参加できそう?』

『参加できるもなにも、そのまっただ中にいるのです』

『そう、それはよかったわ』


 はて、よかったとはどういう意味でしょうか?


『午前中にも説明したけど、そのイベントのレア報酬が『アントの卵』なのよ。クリアしたとき運がよければ手に入るからがんばってみてね』

『そういうことならがんばります。やってやるのですよ』

『それじゃあ、準備もあるだろうしこれで。がんばってね』


 ユーリさんとの通信が切れ、様子をうかがっていたふたりに通信内容を説明です。

 そうしたら、ふたりもやる気を出してくれましたよ。


「そういうことならがんばるしかないわよね」

「そうですね。お姉ちゃんの畑作りのためですし、がんばりましょう」

「それにゴブリンの巣にはあまり近寄りたくなかったし」

「ゴブリン、苦手なんですよね……」


 やる気を出したのは、ゴブリンの巣に行きたくないと言う理由もあったからですか。

 どちらにしても、本気になってくれるのは嬉しいですね!


「おい! 俺の話の途中だろうが!」


 あ、まだ野良犬がいたんだよ。

 でも、もうこいつの相手をする時間も残ってないのです。

 戦闘開始前の作戦会議も必要ですし、そもそも相手にする理由がないですし。


「これから戦闘イベントなんだよ。邪魔だから自分のパーティに戻ってください」

「なんだと、このクソガキ……」

「レッドそこまでだ」

「キクサスさん、邪魔しないでください」

「この子も言っていただろう。これから戦闘だ。俺たちも作戦会議だ」

「……ちっ、命拾いしたなガキ。イベントが終わったら覚えてろよ」


 セリフだけは威勢よく駄犬が去って行ったんだよ。

 さて、これで落ち着いて作戦会議ができますね。


「作戦会議と言っても複雑なことはできないわ。私たちにできる攻撃手段と言えば、サンダーボルトかそれ以外かだしね」

「つまりいつもどおりなんだね」

「ええ、そうなるわね。クイーンアントがどんなモンスターかわからないけど、レッドなんかに負けないようがんばりましょう」

「はい、がんばりましょう!」

「がんばるんだよ」


 短い作戦会議が終わったら、パートナーたちの調子も確認して準備は万全です。

 どこから襲ってくるかわからないので、丸く円陣を組んで待ち構えますよ。

 見れば、レッドたちも似たような陣形ですね。


「……さて、開始時間よ。どうなるのかしら」

「……なにも現れないんだよ?」

「変ですね。どうなっているんでしょうか」


 周囲の様子をうかがっていると、クエスト詳細が表示されました。

 詳細の内容は『ソルジャーアントを倒せ 0/50』というものでしたよ。


「どうやら、まずはソルジャーアントとやらを倒さなくちゃいけないようね」

「なんとなくめんどくさいんだよ」

「露払いですかね。サクッと終わらせちゃいましょう」


 少し待つと、地面に三カ所ほど穴が開き蟻が這い出してきたのです。

 こいつがソルジャーアントですね。

 レベルは12、そこまで強い相手ではないのですが、数が多いのが問題なんだよ。


「とりあえずサンダーボルトは温存。敵がたまってきたら適宜撃つ方針で」

「了解ですよ」

「アプリ。私たちは、黒号が引きつけてくれた敵を一匹ずつ仕留めるわよ」

「はい、わかりました!」


 ボクたちのアント戦が開始されました。

 アントの大きさはボクの背丈ほどもあり、非常に圧迫感があるのです。

 でも、黒号はまったくひるまずにアントを引きつけてるのですよ。

 そんなアントは、サーシャたちによって一匹ずつ倒されていきます。

 ボクは黒号の回復と光魔法での援護で忙しいですが、数で押されることもなさそうですね。

 ……でも、適度に休憩を挟まなくちゃいけないので、やっぱりシズクちゃんにお願いしましょうか。


「シズクちゃん、サンダーボルトなんだよ」

「ウォン!」


 サンダーボルトの一撃にソルジャーアントは耐えられるはずもなく、群がっていた一団は消え去ったんだよ。

 今のうちに黒号の回復をしたり、サーシャとアプリもMPを回復したりと時間を有効に使います。

 さて、討伐数ですが……いまの時点で二十一匹ですか。

 思ったよりも時間がかかってますかね。


「サーシャ、討伐数がいまいちな気がするのです」

「この敵、物理攻撃があまり通らないのよ。だから、ほら、あっちがね」


 サーシャが指さした方を見ると、レッドを含んでいたパーティがソルジャーアント相手にかなり苦戦していました。

 あのパーティは魔法使いがいないようですので、この敵相手は苦労するんでしょうね。


「……さて、また群がってきたわね」

「そうですね。二戦目と行きましょうか」

「もう少し休んでいたい気分だったんだよ」

「そう言うわけにも行かないでしょ? あっちのパーティが倒れたらクイーンアント戦が大変になるわ」

「ライバルは少ない方がいいのでは?」

「使えるものは使ったほうがいいのよ」


 おお、サーシャが黒い黒い。

 そう言うことでしたら、ボクももう一踏ん張りがんばりましょうかね!


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 そのあともソルジャーアントをしばらく倒します。

 三度目のサンダーボルトで群がっていた連中を吹き飛ばすと、残っていたソルジャーアントが引き上げていきます。

 なにかあったんですかね?


「……どうやらいまのサンダーボルトで規定数を倒すことができたようね」

「と言うことはほとんどボクたちのパーティで倒したことになるんだよ」

「そうかもしれないけど、まあ、向き不向きだから仕方がないわ」

「ではいよいよ本命ですか?」

「その前に一分ほど休憩があるみたいね。今のうちにステータスを全回復しておきましょう」

「了解です」

「わかったんだよ」


 遠目に見れば、あっちのパーティも休憩してるようですね。

 ボクたちもさっさとHPやMPを回復しましょうか。


「……さて。回復も終わったわね。それじゃ、本命戦がんばりましょう」


 一分間のインターバルが終了すると、光の柵中央付近の地面が地鳴りとともに盛り上がり始めたんだよ。

 そして、その奥から体高三メートルはある巨大な蟻が出てきました!


「あれがクイーンアントですか!?」

「想定していたよりもでっかいわね。戦うしかないわけだけど」


 どうせ逃げられないのですから全力で戦うしかないですね。

 さあ、ファイトですよ!

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