51.決戦クイーンアントなんだよ!

「おい、ガキ。このイベントでどっちがMVPをとれるか競争をするぞ」


 これからクイーンアント戦だというのに、バカが近寄ってきてなにかを言ってますよ。

 もちろん、ボクは全無視ですが。


「おいこら!? 聞いてんのか!?」


 聞いてませんよ。

 そんなことより、クイーンアントから目を話さないようにする方が大事ですからね。


「はあ。レッド、君はもういい。下がれ」

「いや、でも……」

「因縁がある君に交渉を任せたのが間違いだった」

「ちっ……」

「そちらのパーティリーダーは誰かな?」

「私よ。もうすぐ戦闘開始だから用件は手短にね」

「彼が言っていたとおりなんだが、どちらのパーティがMVPをとるか勝負しないか? まあ、商品はないんだが」

「めんどくさいからパスよ。それよりも、そっちのパーティが崩れないようにがんばってね。あと、邪魔してきたらまとめて吹き飛ばすわよ」

「ああ、わかった。手綱はしっかりつけておくさ」


 あっちのパーティのリーダーさんが、レッドの首根っこをつかんで自分のパーティのところまで戻っていきました。

 それにしても、誰も得しないMVP競争なんてして意味があるんでしょうかね?


「リーン、そろそろ動き出すわよ」

「はい、シズクちゃんの出番ですね!」

「いいえ、シズクは温存よ。最初は黒号にがんばってもらって十分にヘイトを稼いでもらうわ」

「どうしてそんなことをするんです?」

「そうしないと、サンダーボルトを当てたときにターゲットがシズクに移るからよ。シズクじゃクイーンアントの攻撃に耐えられそうもないでしょう?」

「それは当然ですね。了解したんだよ」

「アプリも聞いていたわね。最初は黒号がヘイトを稼いでいる間、私たちは援護攻撃を行うわよ」

「わかりました。任せてください!」


 ボク以外の役割も決まっていったようですね。

 黒号はヘイト集め、プリムはサーシャたちに混じって攻撃を担当です。

 さて、そろそろクイーンアントが動き出す時間ですよ。


 って、あそこに見えるのはレッドでしょうか。

 まだ戦闘態勢に入っていないクイーンアントに攻撃を仕掛けたんだよ!


「へっ、ファーストアタックはいただきだ!」

「グギギギ」


 レッドの攻撃によって戦闘可能となったクイーンアント。

 そのレベルは16だったんだよ。

 ボクよりも高いとは厄介ですね。


「あっ、レッドが吹き飛ばされたんだよ」

「そのようね。あと、攻撃もあちらのパーティにのみ行っているわ」

「どうしてでしょうね?」

「攻撃を仕掛けたのがレッドだけで、ヘイトを全部あっちのパーティが持って行ったからじゃない?」


 ふむ、よくわかりませんが、このまま待っていればこちらは攻撃を受けずにすむということでしょいか。

 なんとなくサーシャに聞いてみましたが、サーシャは渋い顔で否定します。


「そんな簡単な話じゃないわ。あっちのパーティが全滅していたら、今度はこっちに攻撃が集中するもの。できれば攻撃は分散させたいところよね」

「なるほどですよ。じゃあ、早速手を出しますか」

「そうね。あちらの攻撃は、魔法攻撃に足を使ったたたきつけ、全身でのスタンプ。これだけわかれば十分よ」

「わかりました。それでは黒号、ゴー!」

「アプリ、私たちも行くわよ」

「はい。マリーナも遅れずについてきてね」

「キュルルル」


 あちらのパーティで行われていた戦闘に、黒号たちが割って入ったことによりかなりの乱戦となりました。

 まあ、乱戦になっているのは指示を聞かずに暴れようとしているレッドくらいなものですが。

 ほかのメンバーさんは黒号たちが割り込んでから、上手に休憩を取ってるんだよ。

 本当に同じ初心者ですかね?


 黒号たちが割り込んだあとは、黒号のHP管理がボクのお仕事となりました。

 ときどき、ライトボールを使ってみましたが、目くらましにもなっていないみたいですね、

 そうして十分ほどたったところで待ちに待った指示が飛んできましたよ!


「リーン! サンダーボルトをお願い!」

「わかったんだよ! それではシズクちゃん! 派手にぶちかますんだよ!!」

「ウォフ!!」


 気合い十分のシズクちゃんから放たれたサンダーボルトがクイーンアントを直撃しました。

 この攻撃一発でクイーンアントのHPは四割ほど吹き飛びましたよ!


「……サンダーボルトでも40%なのね」

「そのようです。これは厳しいですね」

「こうなると、次のサンダーボルトは残りHPが40%を下回るまで温存ですよね」

「それが定石かと。下手に強化モードに入られたら手がつけられなくなります」


 さあ、ここから一気に勝負を決めますよ!

 と思っていたら、サーシャから「指示があるまでリーンたちは待機」と言われてしまいました。

 待機……すなわち、黒号の回復をしてろってことですね。

 仕方がありませんので、そうさせてもらいましょうか。


 前方の様子をうかがうと戦闘は最初の頃に比べても激化しているようです。

 というか、クイーンアントがなにかをまき散らすようになってますね。

 ……あ、こっちにも飛んできました。

 盾で防がないと。


「って、盾で防いでも結構ダメージが!?」


 盾で防いだはずなのに数ポイントのダメージを受けました。

 前線にいるみんなのHPを確認すれば、いまの攻撃で結構ダメージを受けていますね。


「こんなときは範囲回復、エリアヒール!」


 先ほど覚えたばかりの魔法を使って見せます。

 これは一定範囲内にいる味方をまとめて回復する魔法。

 ボクの意図を察知して、みんな範囲内に入ってくれましたよ!


「今度からは定期的にエリアヒールの準備もしなくちゃですね。……と言うか、エリアヒールを覚えれてよかったんだよ」


 ここまでくれば、あとは同じパターンを繰り返すだけ。

 クイーンアントの範囲攻撃がきたときだけ範囲回復を使い、それ以外は黒号の回復です。

 そんな攻防を繰り返して敵の残りHPが40%を少し下回った頃、待望の指示がサーシャから飛んできました!


「シズクちゃん、今度こそ決めますよ! サンダーボルトです!!」

「オンオン!!」


 クイーンアントの身体に二発目のサンダーボルトが吸い込まれて、激しい音が鳴り響きます。

 そして、クイーンアントのHPはと言うと……ゼロになってますね!

 ボクたちの勝利なんだよ!


《突発イベント『クイーンアントを退治せよ』の目標が達成されました》

《突発イベント『クイーンアントを退治せよ』を終了します》


 クイーンアント戦は完全に終了したようですね。

 今回は少し疲れたのですよ……。

 あまり動いていないボクでもこれですから、サーシャたちはもっと疲れているはずです。

 サーシャとアプリが黒号をワシャワシャなでてますし、黒号は貸してあげましょうか。

 ボクにはシズクちゃんがいますからね!

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