第46話
アンネローズはプラチナの宝剣で死神二体と斬り結ぶ。
徐々に感覚をつかみ、宝剣は浄化の光をわずかながらまとうようになった。
その光をうっとうしそうに払いのけようとする死神たち。
「やっちゃえええ、悪役令嬢っ!」
「誰が悪役令嬢ですか!」
ティエナの声援(?)に応えつつ、アンネローズは宝剣を振るう。
次第に強まる浄化の光に、死神たちはアンネローズの攻撃を鎌で受け止めるようになっていた。それまでは、ダメージが通らないことを見切ってか、防ぐそぶりも見せなかったのに。
「これでどうですっ!」
アンネローズの斬り下ろし。
死神は鎌の刃でそれをがっちりと防いだ。
その瞬間、アンネローズの剣がぽっきり折れた。
つんのめったアンネローズに、死神の刃が襲いかかる。
アンネローズはそれを地面に転がってからくもかわす。
「お、折れましたよ!?」
「その宝剣はあくまでもプレゼントアイテムだから! 武器としての性能ははっきり言って微妙ね! 破魔の効果もそんな強くないし!」
「見た目だけってことですか!?」
「だからあの王子が喜ぶんでしょうが!」
ティエナの返しに、おもわず納得してしまうアンネローズ。
「まあ、まだまだありますから」
空間跳躍して体勢を立て直し、魔法のボディバッグから別のプラチナの宝剣を取り出した。
アンネローズが景品として手に入れたプラチナの宝剣は全部で五本。その一本が今折れた。
「わたしの持ってるのも使いなさい!」
ティエナはそう言って、バッグの中からプラチナの宝剣を取り出している。
その数、合計で二十五本。
クライスの好感度を上げきり、アイザックにも何本か贈る予定だったアイテムだ。
「いいんですか!? またカジノに入れるとは限りませんよ!」
「わかってるわよ! でも命には代えられないじゃない! くぅぅっ、武器の耐久度システムなんて滅べばいいのにっ!」
「後半はよくわかりませんが……そういうことならお借りします!」
アンネローズはプラチナの宝剣を手に、斬る、斬る、斬る。
何合か打ち合わせると、プラチナの宝剣はおもちゃのように折れてしまう。
こちらの武器は所詮
死神と、死神二体分の能力を上乗せされたアンネローズが斬り合えば、アンネローズの宝剣が折れるのもしかたがない。
(すべての宝剣が折れてしまう前に、
アンネローズの攻撃が、ようやく死神にも手傷を負わせられるものになってきた。
チリツモで死神にダメージが蓄積していくが、それでもやはり、このままでは宝剣が尽きるほうが先だろう。
どうしても
さらに、
「お嬢様! あちらからも死神が!」
三体目の死神が現れた。
敵意の爆竹、ババババババ!、空間跳躍で背後、宝剣で斬りつける。
宝剣でダメージが通るようになったことで、爆竹の消費ペースが減ってきた。
といっても、爆竹は500個も交換しているから、さすがに尽きることはないだろう。ただ、今後のことを思えば、手軽に敵意を集められる爆竹は、なるべく温存しておきたいのも事実だった。
三体分の敵意を得て、アンネローズは能力はもはや神域に達している。
基礎的な身体能力はもちろん、高まりに高まった魔力は、
(あのとき同時にコピーしたことが影響している……?)
ティエナが地面に積み上げた宝剣の山が半分以下になったところで、
「――掴んだわ!
アンネローズの剣から、聖なる烈火の斬線が迸る。
薔薇色の聖光が、死神の腕をもぎ取った。
がらんがらん、と音を立てて死神の鎌がダンジョンの床に転がった。
やれらた死神はもちろん、残りの二体も、一瞬あっけにとられたように動きを止める。
アンネローズの手にした宝剣は、今の一撃によって、刃がどろどろに溶けてしまっている。
一本につき一撃。
残る本数を考えると、余裕があるとも言いがたい。
アンネローズはティエナが積み上げた山から宝剣を二本同時に拾い上げる。
死神二体との位置争いを制し、
「わたくしからのプレゼントですわ!」
それぞれに、一撃必殺。
薔薇色の
最初の死神も、残りの二体も、かなりのダメージを負ったらしい。
その場でうずくまったまま動かない。
最初の一体が落とした死神の鎌を空間跳躍して拾い、さらに空間跳躍してティエナたちのもとへ。
左手に鎌、右手に宝剣。
残りの宝剣は自分のボディバッグにつっこんだ。
「クレア! ティエナさん! 今のうちに逃げるわよ!」
「わ、わかりました!」
「わかったわ!」
動けない死神にとどめを刺すことも考えたが、そのために宝剣を使い潰すのはまずいだろう。
ダンジョンの出口にたどり着くまで――あるいは、帰還の御札が使用可能になるほどに敵から距離が取れるまでに、あと何体の死神と出くわすかわからないからだ。
アンネローズたちは走った。
死神はその後も何度か現れたが、そのたびに宝剣一本を消費して
「貴重なプレゼントアイテムがぁぁっ!」
涙目で悲鳴を上げるティエナに、
「ティエナ様が長居をするからでしょう。自業自得です」
と、クレアが辛辣なコメントを投げつけている。
三回行動が持続しているアンネローズにとっては、二人のテンポの遅さが焦れったい。
たまに通常の
宝剣が残り五本を切ったところで、
「お嬢様! その先が出口です!」
「進行方向に死神よ!」
「これが最後よ! ありがたく受け取りなさい!
蒸発する死神。
その奥の出口に、ティエナ、クレアが飛び込んだ。
背後から迫ってきた死神の鎌を、途中で奪った死神の鎌で受け止める。
(もうアイテムを潰してまで倒す必要はないわね)
死神との鍔迫り合いの反動で後ろに飛び、アンネローズはそのままダンジョンの出口から外に出た。
外は明るく――はなかった。月明かりと星明かり。外にはもう夜の
頬を撫でる夜風が、ダンジョンから出たことを実感させてくれる。
当然ながら、死神はダンジョンの外までは追ってこない。
出口のすぐそばで、ティエナが大の字に倒れて荒い息をついている。
クレアすら、疲労困憊の様子であふれる汗をぬぐっていた。
敵意の消失にともない、アンネローズの身体に満ちていた力が消えていく。
全身が嘘のように重たくなり、一ターンのテンポがもとに戻る。
「……なんとかなったわね」
こうして、アンネローズたちは無事、ダンジョンからの生還を果たしたのだった。
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