第15話
クライス王子との婚約は無事に流れた。
アンネローズの、男性不信ともおもえる、世をはかなんだような態度のせいもあってか、それなら他のお相手と……といった話にもならなかった。
貴族の筆頭であるマルベルト公爵家の令嬢に婚約者がいない、というのは珍しいことではあるが、不名誉というほどのことでもない。
父である公爵は、貴族学院に通うあいだに心境の変化もあるだろうと、静観するつもりでいるようだ。
しかしそうなると、
「貴族学院入学までの一年間をどう過ごすか、よね」
アンネローズは屋敷のサロンでティーカップ片手につぶやいた。
とくに人目があるわけではないが、考えにひたりながら顎に指先を添えるアンネローズの姿は、絵になりそうなほどさまになっている。
「『前回』……というのも変だけれど、三年後の三年前のこの時期には、殿下との婚約が決まって、将来の王妃としての教育を受けていたのよね」
王宮から公爵領に家庭教師が派遣されてきて、アンネローズは厳しい訓練を受けた。
公爵令嬢として幼少時から厳しいしつけを受けてきたアンネローズだったが、王妃教育はその比ではなかった。
王妃となれば、他国の代表を歓待することも頻繁にある。アンネローズへの王妃教育には、まさに国の威信がかかっていたのだ。
「でも、当然ながら『今回』はそれはなし。じゃあ、その時間をなにに使うべきかしら?」
やることがないから寝て過ごす、という発想はアンネローズにはない。
そういう性格だということもあるが、今回のばあいはそれだけではなかった。
「卒業記念パーティでの『断罪』は回避した……と思うのだけれど。ティエナ嬢の動き次第ではべつの形で衝突する可能性もあるのよね」
「前回」の衝突は、アルバ歴1001
だが、なまじそれを「回避」したことで、衝突のタイミングがわからなくなった。
もちろん、ティエナ嬢と必ず衝突すると決まったわけではないのだが。
「もしその衝突が『前回』同様武力衝突になったばあい……わたくしは『聖なる祈り』をもつティエナ嬢に再び敗れる可能性が高い」
ティエナ嬢と一対一であれば、「聖なる祈り」で
貴族学院では、
これは男女問わずの義務だから、アンネローズも当然履修している。
というか、成績では女子生徒の中でトップだった。
クライス王子たちに寄生し、自分で戦おうとしていなかったティエナ嬢が相手なら、まず負けないと断言できる。
だが、ティエナ嬢が一人でアンネローズに襲いかかるとは考えにくい。
「まずまちがいなく、クライス殿下たちをけしかけてくるでしょうね」
相手が男性では肉弾戦で不利なことは言うまでもない。
魔法戦でも、向こうには
「
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