第44話
「死神ですって!?」
――死神。
それは、ダンジョン探索者が最も恐れる存在だ。
死神は、ダンジョンの一つのフロアに長時間留まっていると、どこからともなく現れる。
その役割は――ダンジョンの掃除。
人が一度動くあいだに
その圧倒的な強さは、理不尽としか言いようがない。
探索者たちがダンジョンの中に固定した拠点を持てないでいる最大の理由が、この死神の存在だ。
「しまったぁ~~!! カジノに時間かけすぎたぁぁぁぁっ!」
そんなティエナにクレアが噛み付く。
「いったいいつから潜っていたのです!?」
「ま、丸三日くらい、かな……」
「三日!? なぜあなたほどの探索者がそんな初歩的なミスを……!」
「だ、だって、なかなか当たりが出なかったし……! 途中からはあんたたちが来て話し込んだりもしてたから……!」
「クレア! ティエナさんを責めている場合ではありません!」
「しかし、死神などどう対抗すれば……!」
「それは……」
アンネローズは魔法のボディバッグから「敵意の爆竹」を取り出した。
「ティエナさん、一瞬だけ穴を!」
「わかったわ!」
説明不足かと思ったが、ティエナはアンネローズの手元を見てこちらの意図を汲んでくれた。
死神の連撃の隙間を縫って、ティエナが
アンネローズは魔法で着火した爆竹をその穴経由で死神へと投げつけた。
ババババババ! と派手な音と火花が弾ける。
死神は疎ましげに襤褸を払うようなしぐさをした。
死神の本体(?)はもとより、襤褸に火がつく様子もない。
もとより、ダメージを期待して使ったものではない。
襤褸の奥に覗くされこうべ。
その奥にある血色の光が、アンネローズをギロリと睨む。
発動条件を満たした
「コオオオオオ……ッッ!!」
アンネローズのつややかな金髪が闇色に染まり、蒼い瞳が真紅に輝く。
死神が身にまとっているのと同じプレッシャーが、アンネローズの全身から溢れ出す。
アンネローズは驚いた。
「こ、これは……!」
凄まじいパワーだった。
素の能力だけをくらべるなら、攻略対象という特権的な地位にあるあの五人を合わせたよりも、この死神一体のほうが高いだろう。
その上、死神は強力な固有能力まで持っている。
「これならっ!」
アンネローズは剣(プレゼントアイテムではなく最初から持っていたもの)を握り直すと、手に入れた力を行使する。
何の脈絡もなく、アンネローズの視界が切り替わった。
目の前には、黒い襤褸に覆われた死神の背中。
アンネローズはコピーした死神の能力で空間を跳躍し、死神の背後に現れたのだ。
アンネローズは剣を振り抜く。
空気の塊を裂くような手応え――剣閃が音速を凌駕したのだ。
だが、超音速の剣撃は空を切った。
たしかに襤褸を切り裂いたはずなのに、何の手応えもなかったのだ。
「なっ!?」
「悪役令嬢っ! 下がりなさい!」
ティエナの警告に、アンネローズの身体が反射的に動いた。
死神の高い敏捷性のおかげで、ただのバックステップも神速だ。
飛び退いたアンネローズの鼻先を、死神の鎌が駆け抜けた。
「戻って! バリア張るっ!」
返事をする
アンネローズは数歩下がったところで空間跳躍。
ティエナの前に現れる。
「うわっ!? ビビるわね!」
「それより早く!」
「もちろん、
ぎゃりりり! ぐぎゃわん! ぐぎゅおおおん!
死神が一瞬で放った三撃が、ティエナの障壁に弾かれる。
「どういうこと!? 全然手応えがなかったわ!」
「たぶんあれでしょ、霊体だったり、神の一種だったりで、物理攻撃が効かない設定だったりするんでしょ!」
「そんなの、どう倒せばいいのですか!?」
「わかんないわよ! あんたこそ、
「異常なほど高い基礎能力と空間跳躍だけでした!
「ああ、死神は1ターンに三回行動できるのよ!」
「ターンとはなんです!?」
「ターンって概念がこの現実にどう『実装』されてるかによるわね! ざっくり、こっちが一手進めるあいだに向こうは三手進められると思えばいいんじゃないの!?」
「は、反則じゃないですか!?」
「反則みたいなもんよ! そもそも、あいつは倒されることを想定されてないの! プレイヤーがひとつの階層に居座らないようにプレッシャーをかけるための存在なんだから!」
「じゃあどうすればいいんです!?」
「逃げるしかないわ! といっても、向こうは空間跳躍に三回行動! どうにか足止めしないことには逃げるのも難しいけどね!」
「どうして男性との甘酸っぱい恋愛を楽しむゲームにそんなものがいるんです!?」
「知らないってば! 開発陣が千回遊べる系RPGのファンなんでしょ! それより、そろそろバリアが破れるわよ!」
「ちょっと! まだ対策ができてません!」
死神には物理攻撃が効かないという。
だが、死神の攻撃手段は物理攻撃だけだ。
だから、死神の能力を
(とんだ抜け道があったものですね……!)
死神が自分自身にも通用する攻撃手段を持っていれば、アンネローズはいつもどおりの手で死神と戦えた。
しかし、死神には死神を傷つけられる攻撃手段がない。
いくら死神の素の能力が高くても、物理攻撃そのものが効かないのでは意味がない。
「お嬢様! 魔法なら効くのでは!?」
「そ、そうね!」
クレアのアドバイスと同時に、ティエナのバリアが音を立てて砕け散った。
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