第12話
奇妙なことばかりだが、ようやく整理ができてきた。
「まず、最大の謎は時間遡行。なぜ、わたくしは三年前に意識だけが戻ったのか? 今のところ手がかりすらないし、この先もずっと理由はわからないかもしれないわね」
だが、理由がわからなくても、現に起きてしまったことだ。
それを前提に今後のことを考えるしかない。
「もうひとつは、ティエナ嬢の逆ハーレム。手練手管を尽くしたところで、あの五人を仲良く愛人にするなんてことができるとは思えない」
きっと、なんらかの秘密があるのだろう。
「ティエナ嬢がこの国の女王になろうとしている可能性がある? 考えすぎとは思うけど」
クライス王子との婚約などこちらから願い下げではあるが、その結果ティエナ嬢が女王になるなどというのはこの国にとって悪夢でしかない。
「ティエナ嬢の
理屈だけで考えるなら、
敵意を向けてくる相手の能力を自分の脳力に上乗せする、という
「聖なる祈り」がその例外なのだとしたら、それは伝説の
「
あの「断罪」のときのように一対多数になると苦しい局面もありうるが、一対一なら確実に有利が取れるのだ。
「そんなでたらめな能力だけに、
クライスは、敵意を向けられてはじめて発動できるという制約の意味を誤解し、「使えない」とひそかに断じていたのだろう。
たしかに、
だから、敵意を向けられる前に、こちらから先制攻撃することは不可能だ。
だが、敵の攻撃に対して反撃する分には滅法強い。
自由に使える「矛」ではないが、向けられた矛を防ぐ「盾」であり、手痛いしっぺ返しを加えるという意味では「盾にして矛」。
それが、
「でも、その
「聖なる祈り」発動には時間がかかっていたから、そのあいだにどうにかすることは考えられる。
しかし逆に、不意打ちの「聖なる祈り」で
あのパーティのときにそうしていなかったのは、
「じゃあ、あの事件が起こる前にティエナ嬢を拘束して……って、ダメね。ことを起こす前に彼女を拘束できる理由がないわ。それに、そんなことをしては向こうの思う壺。わたくしは本当に『悪役』にされてしまうわ」
嫉妬に狂い、聖女を正当な理由もなく拘束した悪役の令嬢――そんなふうに思われたくはない。
クライスにフラれたと言われるのも嫌だが、それ以上に、実家の権勢をかさに着て筋の通らないゴリ押しをするような我が儘令嬢だと思われるのが嫌なのだ。
「そもそも、今となっては殿下との結婚なんて願い下げよね。でも、殿下に婚約者がいなくなったら、ティエナ嬢が殿下に近づくことを阻止する理由がなくなってしまう。ティエナ嬢が王位を狙うという保証はないし、それが成功する確率も高いとはいえないけれど……」
五人もの性格の異なる男性を魅了して逆ハーレムを築いている時点で、ティエナ嬢には「何か」がある。
一度不可能を可能にしたのなら、さらにもう一度奇跡を起こさないとも限らない。
「クライス殿下と結婚するのもごめんだし、ティエナ『女王』にかしずくのもごめんだわ」
「前回」の恨みばかりではない。
学院でもティエナ嬢はなにかとアンネローズにつっかっかってきた。クライスの婚約者であること以外で恨みを買った覚えはないのだが。
もし今回もまた彼女に嫌われる流れになるのだとしたら……ティエナが女王になったこの国に、自分の居場所はないかもしれない。
考えすぎかもしれないが……
「最悪の事態を想定しておくべきね」
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