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――ムムに聖魔法の適性があるのではないか。
その疑惑があるため、ムムの適性を調べることになった。幸いにも、ニガレーダ王国の王城には、適性を調べるための魔法具が残されている。
ニガレーダ王国が一度崩壊した時にその魔法具が持っていかれなかったのは、本当に幸いであったと言えるだろう。
「それで聖魔法の適性があったらどうしましょうか」
「手堅く保護する。それ以外ないだろう」
そこまで答えて、グレッシオはもし聖魔法の適性があったのならばまた違う話になるだろうと考える。
――あの街では聖魔法の使い手が体調を崩してしまう何かがある。奇跡の街と呼ばれ、死者が少ない街で、聖魔法の適性があるものだけが体調を崩し、今にも死んでしまいそうな状況に陥る。
――もしかしたら聖魔法の適性を持つものが、このニガレーダ王国に生まれない原因はそのあたりが関係しているのではないか。
グレッシオはそこまで考えて、――あの街が聖女さまにゆかりの地である事実を踏まえても、聖女さまが何かしらその現象にかかわりがあるのではないかと試行していた。
「なぁ、お前たちは……この不可解な現象に聖女さまがかかわりがあると思うか?」
「はい。聖女さまが活躍したという記録のある街だからこそ起こっていることだと私は思います。聖女さまが意図的に今のニガレーダ王国にこういった影響を与えたのか、それとも偶然こんな風に影響を与えているかはわかりませんが……。聖女さまの逸話が残っている土地でこういうことが起こるのは聖女さまと無関係であるとは言えないと思います」
現地に行った侍女にもそう言い切られて、グレッシオは小さくため息を吐いた。
この国で聖魔法の使い手を増やしていきたいと考えているため、聖魔法の使い手が体調を崩すような場所があることが分かったのは良いことである。知らなければどうしようもないことが、知っていれば対応できるものは少なからずあるのだから。
とはいえ、その事実はグレッシオに重くのしかかるものである。本当に聖女さまという特別で唯一であった存在がこの国に多大な影響を与えているというのならば、それをどうにかする力があるのだろうか。
そこまで考えて、いや、あるかないかではなく、どうにかするしかないと決意する。
「そうか。その事については調べて行こう。その前に本当にムムに聖魔法の適性があるかどうかを調べることだな」
「はい。急いで行います」
侍女は深々と頷いて、そう告げる。
それからカロッルたちは報告をして、部屋を後にした。
「聖女さま以外の存在を認めないとしている街というだけでも不可解なのに、その街では聖魔法の使い手を不調にする何かがあるなんて不思議ですね」
「不思議だな」
「まるで聖女さまが残した呪いのようです。もちろん、聖職者として有名な聖女さまが呪いなんてものを使えないことは分かっていますが、今回知ったことを思えば呪いのようだと思ってなりません」
「……どんな力でも使い方次第では別の効果を発揮するものはあるだろう。聖魔法について、このニガレーダ王国では記録が少ない。聖女さま以外の聖魔法の使い手がこの地にいなかったからも言えるだろうか。聖魔法という力は、俺達が思っているよりも危険な力なのかもしれないな」
聖魔法という力は、グレッシオたちが思っているよりも危険な面が強いのかもしれない。本当に聖魔法の使い手が、現在ニガレーダ王国に起こっているようなことを起こせるのならば、それだけでもマドロラが言うように大きな呪いのようだ。
聖女さまが没して長い時間が経過しても、影響を与える大きな力。
「そうですね。聖女さまが残した呪いと呼べるものは、この王国を蝕んでいます。聖女さまという存在がいたからこその影響がまだまだこの地には蔓延っている。ベベの街はどちらにせよ、聖女さま以外の聖魔法の使い手を認めないというのならばどうにかしなければなりませんが……、そもそも一定の条件を満たした存在が不調になる土地なんて人が住まない方がよろしいかもしれません」
「まぁな。一種の呪いの地みたいなものだしな。でもずっとベベの街に住んでいる存在ならばそこに愛着があるだろうし、他の土地に移れとも言いずらいだろう。話し合いでどうにもならないなら力づくでどうにかする必要はあるけどな」
グレッシオは、やっぱり聖女さまは面倒な問題をこの国に残して逝ったものだと思ってならない。
聖女さまが居たからこそ、この国は今こうなっている。でも聖女さまが居なかったら、こういう聖魔法の使い手の問題はこの国に残らなかっただろう。
そんなことを考えながら、グレッシオがマドロラと会話を交わしていると――、先ほど出て行った侍女たちが戻ってきた。
「ムムさんには微かにですが、聖魔法の適性が見られました。本人も今まで生きてきて気づかないほど小さな適性ですが、適性があることには変わりがありません」
――そしてムムに聖魔法の適性が微かにだがあったと、グレッシオに告げる。
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