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神官の側にいた聖魔法の使い手が此処に居るという事実は、グレッシオが驚くには十分である。
ジョエロワとグレッシオの推測では、神官自体は聖魔法が使えずに後ろにいた見習い神官が聖魔法を使っているというものだった。その聖魔法を使っていたと思われる少年がどうしてこうして商品として出品されているのか。
グレッシオにとっては聖魔法の使い手が商品として売られていることは喜ばしいことだが、何故、そんなことになったのかという興味はある。
それと同時にあの高名な神官が、やはり評判通りの存在ではないことが把握できた。
このデジチアの街で徳が高く、優しく、慈愛深いと言われている神官であるが――、こうしてその下にいた見習い神官が出品されているのだ。もしかしたらあの高名な神官も、この闇オークション会場に参加しているのかもしれない。
それにしてもこうして聖魔法を使っていた相手を商品として出せるという事実は、あの神官の元へ聖魔法の使い手の代わりが他にもいるということだろう。
――奴隷として出品されている少年の目は虚ろで、その目には生気がない。
もしかしたら高名な神官の元で使われている間も、彼にとってはこれからの生活がもっと悲惨なものになってしまうのだろうかという不安が大きいのだろう。
ここでようやくグレッシオたちは動く。
案内役に対してあれが欲しいと話しかければ、まずは金貨30枚からあの奴隷の売買は始まるのだと言われる。やはり聖魔法の使い手というのは、元々高価なのだ。
これから、どこまで値段が吊り上がっていくのか……、そんな不安を少しだけ考えながらグレッシオはあの奴隷を購入するために競り勝とうと気合を入れるのである。
金貨30枚、銀貨20枚。
金貨30枚、銀貨40枚。
金貨31枚。
金貨33枚。
そんな風に、次々と値段が吊り上がっていく。
聖魔法の使い手なんて、早々闇オークションにも出品されることは少ない。それに加えて今、購入しようとしている聖魔法の使い手の奴隷の聖魔法の腕は先日も見ている。
どうしてもニガレーダ王国のためにも聖魔法の使い手を手に入れたいため、グレッシオもどんどん値段を釣り上げていく。
「金貨46枚と銀貨67枚で落札です」
結果として、金貨46枚と銀貨67枚という値段でグレッシオはその聖魔法の奴隷を購入することが出来た。
お金に余裕があれば、もっと他のものも購入しようと思っていたグレッシオたちであるが、流石に治癒師であるカロッルに、今回の聖魔法の使い手を購入したことにより、手持ちのお金はすっからかんである。
折角、闇オークションの会場に出向いたというわけだが、これから先はグレッシオたちは置き物のようにオークションを眺めるだけである。
流石にその後は聖魔法の使い手が売られることはなかったので、グレッシオはただ一人売られていた聖魔法の使い手を購入することが出来てほっとしていた。
ちなみに奴隷の中で一番高額だったのは、元高ランクの冒険者で、様々な技術が高く、出自も貴族の出だという美しい女性だった。グレッシオたちでも名前を聞いたことがあるような、高ランクの冒険者がこうして闇オークションの会場で商品として売られている事実にグレッシオは驚いたものである。
次々と流れていく商品。欲しいものがなかったわけではないが、グレッシオたちはただその商品が買われていくのを見ていることしか出来ない。
――そしてオークションは終わる。
案内役に連れられて、一組ずつ、闇オークションの会場から出ていく形になっているらしい。
グレッシオたちは、一番初めにこの闇オークションの会場から外に出されることになった。
ちなみに商品は、そのまま別室に案内されて購入手続きを行うことになっているらしい。
グレッシオたちが案内された別室には、もう既にグレッシオが購入した奴隷も存在していた。
「お客様、こちらがお買い求めの商品です。料金をいただければすぐにお渡しします」
「これが料金だ」
グレッシオが料金を渡せば、そこに居た闇オークション会場で働くものの一人は、笑顔を浮かべた。
その男はにこにこと微笑みながら、その少年奴隷の購入手続きを進めていった。
少年の目は、やはり虚ろで未来に対する希望が欠片もないといった様子であった。
奴隷の首輪をつけられた少年。
その少年は、栗色の髪と栗色の瞳を持つ。年はグレッシオよりも幾つか下ぐらいだろうか。
その少年はフードをかぶせられ、顔が見えにくいようにはなっているようだ。
聖魔法の使い手を購入するという目的がかなえられたので、グレッシオたちはこのままニガレーダ王国へと戻ることにする。
案内役に案内されて、外へと出る。
闇オークションの会場へと向かう時の通路とはまた違う通路から、裏通りに出た。
「では、私はジョエロワとカロッルとキャリーを呼びに行きます。グレたちは馬車の手続きをしていてください」
「ああ。頼む」
そのまま此処に一泊することもなく、そのままニガレーダ王国へと帰るのだ。
そのため、マドロラが宿へと残っている三人を呼びにいき、グレッシオたちが帰りの手続きをすることにした。
「名前はなんだ?」
「……ヨッド」
「ヨッドか。今から帰ることになる。ついてからヨッドに何をしてほしいか、何で俺がお前を買ったのか説明させてもらう」
「……はい」
ヨッドはもう既に色んなことを諦めてしまっている様子だった。
グレッシオに話しかけられながらも、ただグレッシオの言葉に頷いているだけである。——彼はもう既に生きているようで、死んでいるといったそんな精神状況なのかもしれない。
ただグレッシオたちにとっては、そういう状態というのは好ましくない。
ニガレーダ王国に連れて帰った後、ヨッドがもう少し自分の意見などを言ってくれるようになってくれればいいななどとそんな風に思うのであった。
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