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 会場に辿り着く前に、目元を隠すための蝶の形をしたマスクのようなものを渡された。


 それを身に着けて、グレッシオたちはオークションの会場へと入場した。



 その会場は全体的に言えば、広々としていた。ただし闇オークションに参加しているものが誰であるのかというのを互いに悟られなためだろうか、左右が所々で壁で遮られているが、真正面の舞台はよく見えやすい。

 グレッシオたちが案内されたエリアには、グレッシオたちのほかにも何名かのグループがいたが、それも席がきっちり分けられている。会場自体が暗く、周りの顔は見えないようになっている。

 それぞれの参加者のグループに一人、この闇オークションの案内役がついている。



 スイゴー王国は大きな問題はおこっていない。けれども大きな国になればなるほど、影というものは濃くなるものだ。ニガレーダ王国も、また大きな国になっていけばこういった影は深まることだろう。




 ――闇オークションを見るというのは、グレッシオにとっても良い経験である。周りの事をよく観察し、何かに役に立てるようにと頭に留めておこうとは考えている。

 とはいえ、これだけ情報を遮断している闇オークションなので、どれだけの情報をとどめておけるかというのは分からないが。



 



 そんなことを考えながら、闇オークションの開催を待っていれば、ようやく始まった。










『これよりオークションを開催します』




 耳に響くような声は、何処か人とは違うような響きがある。おそらく声が分からないように何かしらの道具を使っているのだろう。それだけ司会者というのも誰であるかというのを、悟られないようにしていたのだろう。





 

 それぞれについている案内役にどれを購入するかという情報や、幾らで購入希望かというのを伝える形になるようだ。



 グレッシオはそんな説明を受け、ここの闇オークションを運営しているものはこのスイゴー王国の中で強い力を持っているのだろうと確信を強めた。




 淡々とされる説明を闇オークションの参加者たちは黙って聞いている。もしかしたら騒いでいるものもいるかもしれないが、それも道具か何かで遮断されているのかもしれない。




 


「――まず、一つ目の商品は……」



 一つ目の商品は、いわくつきのナイフだった。過去に滅亡した国の王家が所有していたというものであるらしい。



 その国は大国によって滅ぼされ、最後の王族である王女は――、その大国を憎みながら、呪って自害したという。これは、その自害した時のナイフだという。



 欲しい人にとっては欲しいものだろう。



 グレッシオにはそういう呪われたと思われるようなものに興味はない。手に入れられればそれはそれで面白いかもしれないが、闇オークションで敢えて手に入れようとは思っていない。そしてそんなお金の余裕はない。



 

 その商品は、すぐに落札された。




 誰が購入したか、幾らで購入し終えたかもこちらからでは把握は出来ていない。

 それも秘匿するようにしているようだ。ただ購入したものだけが、何を購入したのだかわかるといった仕組みのようだ。



 ただ流石に奴隷を購入すれば、後々誰が購入したかは悟られそうな気もするが。



 グレッシオたちは、次々と出品される商品を見ている。



 ――有名なデザイナーが賞に出した作品。そして大賞を獲ったものの、行方不明あっていたドレス。

 ――没落貴族の令嬢。美しく、絶望した瞳を持つ少女。

 ――二百年前の作家の描いた絵画。

 ――暗殺業を生業とする一族の暗器。



 様々なモノが、闇オークションの商品として売られている。





 その商品が、一つ一つが売却されていく。

 闇オークションの商品はどれも他では見ない目玉商品ばかりである。その厳選されてここに商品となっているものは、此処に居るものの誰かが必ず求めているものなのである。


 そんなわけで売れ残りというものは、ここではないといった雰囲気だ。

 此処に商品として出てくるものは、王太子であるグレッシオの目から見ても価値があるものばかりである。



 こんな闇オークションに参加する者たちなんて、よっぽどお金に余裕があるものか、よっぽど手に入れたいものがあるものか――そういうものたちだけである。



 おそらくこの闇オークションには、よっぽどお金が有り余っているようなそんな貴族もまぎれていることだろう。





 そうしているうちに目当ての奴隷ではないが、ニガレーダ王国で活用できそうな魔法具も出品されていた。



 グレッシオはそれが欲しいとも思ったが、それでも一番の目的が聖魔法が使える奴隷であるので――、グレッシオはなんとか誘惑を振り切る。

 ちなみにマドロラとクシミールは、グレッシオの決断に全てを任せると思っているのか、何も口を出すことはしない。ただ周りを観察するように見ているだけだ。



 そうして、次々と商品が売られていき――、一人の少年が奴隷として売られていた。



 その少年を見てグレッシオは驚いた。




『聖魔法が使える珍しい奴隷です』



 ――そこに商品として出品されていた少年は、つい先日、高名な神官の後ろで聖魔法を使っていた少年、その人だった。



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