.25



「素人じゃない人が沢山まぎれこんでいるねぇ……。闇オークションの会場になっている街だからそういう温床があるということだろうな」

「そうですね。奴隷商の話では大規模な闇オークションという話ですし、それだけ粛正されないように行動しているのでしょうね」




 マドロラがキャリーと共に宿に戻った時、もうすでにグレッシオたちも戻ってきていた。


 大規模な闇オークションなんてものを行うというのならば、それだけ粛正されないように行う必要がある。



 この街の雰囲気だけを見るのならば、闇オークションなどが行われる気配はない。そういう気配が全くないというのは逆に不気味である。




 それでも奴隷商から受け取った招待状には、確かにこの街が指定されている。


 

 ――奴隷の動きや、怪しい人物の動きなどそういうものがあまり見られない。



「この街は、闇オークションが行われるにしては静かで穏やかすぎる」

「それは俺も思った。悪い雰囲気が全くしないからな」


 グレッシオとジョエロワが見て回った限り、この街の雰囲気は穏やかで何処までも静かだ。

 こんな街でそういうものが行われる、というのは想像しにくい。



 それだけ徹底してそういう風にしているというのならば、この闇オークションを運営しているものはよっぽど大きな力を所有しているのだろうということが想像できる。





 それならば、聖魔法の使い手が奴隷として売られている可能性も十分あるだろうということが想像出来て、グレッシオは笑った。





 ――それから数日後、闇オークションの行われる日がやってきた。





 カロッルとキャリーは宿で留守番をすることになっている。下手に闇オークションに奴隷と小さな少女を連れて行くことはするべきではないと判断したのである。



 ジョエロワを一人置いて、グレッシオ、クシミール、マドロラの三人は闇オークションの会場に向かうことにした。



 とはいえ、正確な闇オークションの会場を把握しているわけでは決してない。

 あくまでここから闇オークションに参加できますよ、という案内がされているだけである。



「此処か」

「マドロラが言っていた場所の一つだよな?」

「はい」



 その場所は、マドロラが素人とは見えないと言っていた人物がいたお店であった。

 


 グレッシオたち三人は、招待状に書かれている通りの個室を取る。ちなみにそれを取る場合の言動も招待状では指示されていた。

 奴隷商から直接口で指示されたことと、招待状に書かれていることを行うことで闇オークションに参加できるという仕組みのようだ。



 片方だけでも欠けていたら参加が出来ないようになっているらしいと、マドロラは奴隷商から話を聞いている。



 そのため招待状だけ手に入れても参加は出来ないのだとか。そう考えるとこうして闇オークションに参加できる権利をつかみ取れたのは運が良かったのだろう。




「――水と、ああ、そしてこちらを、あとは……」


 グレッシオは個室に案内をされると、指示されている通りに細かく注文をつけていく。



 それを聞いた店員は、目を細める。



「かしこまりました」



 そう告げて、その灰色の髪の店員はその場を後にする。






 その後は、料理が運ばれてくる。

 ……何か失敗したのだろうか、とそんな風にグレッシオは考える。ただマドロラとジョエロワに確認した所、何も間違いはないようだ。






 となると、このまま待っていればいいのだろうかという結論に至った。



 一先ず指示通りのことは行ったということは確認できているので、大人しく運ばれてきた料理を口に取る。



 魚を焼いた料理は、香ばしい匂いがして美味しかった。スイゴー王国は海はないが、湖や川はある。このデジチアの街の近くに川があるという話なので、そこでとれたものだろうか。



 

 マドロラとジョエロワも「美味しい」と口にしながら料理を口にしている。



 のんびりと食事を行い、丁度、食べ終わった時に、こんこんっと部屋がノックされる。





「お客様方、ご要望の場所へご案内いたします」





 先ほどとは違う青髪の女性が、グレッシオたちに向かって一礼をして、そう口にした。




 その言葉にグレッシオたちは頷いて、立ち上がる。

 



 女性は「では向かいましょう」と口にして、その睡蓮の間から一度出る。その後、外に案内する通路に向かう最中で、方向転換をする。



 壁があった場所にいつの間にか通路が出来ている。




 その場所に薄暗い通路が出来ており、そこに入るように促される。

 グレッシオたちがそこに入る。振り返ればもうそこには壁しかない。



 この店は出口がいくつも設置されているようで、そのうちのいくつかはこうして闇オークション会場へ向かう通路があるのかもしれない。いや、おそらくこの場所だけではなく、このデジチアの街の至る所に闇オークションへつながる通路があるのだろうと、グレッシオたちでも想像が出来る。





 そしてグレッシオたちは女性の後をついていく。

 歩く事15分ほどで、闇オークションの会場へとたどり着くのであった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る