全部聖女さまのせい。

池中 織奈

プロローグ

プロローグ


 ニガレーダ王国。

 それは中央大陸の南部に位置する王国の一つである。




 ニガレーダ王国で、最も有名な偉人は誰か。

 そう問われれば、その大陸のものは真っ先にジョゼット・F・サードの名を思い浮かべるだろう。




 ジョゼット・F・サード。

 美しい金色の髪と、空色の瞳を持つ女性。

 彼女は聖女と呼ばれていた。






 餓えに苦しむものがいれば、祈りをささげる。

 ――そしてその土地は、多くの実りを与えた。



 怪我に苦しむものがいれば、無償で治した。

 ――そしてその土地は、怪我人というものがいなくなった。



 魔力の穢れがたまれば、片手間に取り除く。

 ――そしてその土地は、穢れを知らない土地と化した。




 偉業を成し遂げたジョゼット・F・サードは、この大陸でもっとも勢力を拡大しているサーレイ教の聖女に認定された。サーレイ教の聖女と言えば、その存在だけでもこの大陸で名を馳せることが出来る。他国にまで影響を与える大きな存在だ。



 そもそもの話、ジョセット・F・サードは歴代でも最も力を持つとされている聖女であった。

 平民の出だというのに、その美しさとその力は大陸一とも言われていた。



 ジョゼット・F・サードというその存在がいるだけで、その国は無敵と化した。その国には何の憂いもなくなった。



 ジョゼット・F・サードという女性は、それだけ特別な力を持つ、唯一無二の存在であったのだ。

 




 多くの異性を魅了し、多くの者に慕われたジョゼット・F・サード。

 彼女が伴侶へ選んだのは、ニガレーダ王国の当時の王であった。王に嫁いだジョゼット・F・サードは、二男二女をもうけた。そしてニガレーダ王国の尊き血の中に、聖女という特別な血が流れることになったわけである。




 ――誰もがニガレーダ王国の繁栄を予感した。

 この国は、聖女の血を得て、益々繁栄するだろう。聖女の血を引いた王族がおさめる地はきっとこの先、もっとこの国を強国へと至らせるだろう。

 誰もがそれを予想していたのだ。





 だけど誰もが想定する未来があったとしても、そんな未来がくるかどうかは、その時になってみないと分からないものだ。







 聖女、ジョゼット・F・サードは寿命を全うして、その生を終えた。

 満足したように笑って神の元へと帰っていったという聖女の最期の姿は、有名な画家の手により、描かれている。それはニガレーダ王国の国宝として、城に置かれることになった。




 聖女、ジョゼット・F・サードが没して二十年。







 ――ニガレーダ王国は、かつての繁栄が嘘のように、小国へと成り下がっていた。





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