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にこやかな笑みが一変する。その目は細められ、グレッシオたちを見つめる。
「いただけないというのは、どうするつもりだ?」
「そうねぇ。ちょっと遊びましょう。私と」
リージッタは、何処までも楽しそうな笑みを溢す。
グレッシオは、リージッタ・スイゴーという王女について詳しい情報を知らない。リージッタ・スイゴーという王族は、スイゴー王国の中でも、名がしれているわけではない。
――隣国であろうとも、グレッシオは、リージッタ・スイゴーのことを名前程度しか知らなかった。
第五王女という立場である彼女は、公の場に出るのが上の兄妹よりも少ないというのも理由の一つだろう。
グレッシオは、リージッタ・スイゴーという少女の事をそこまで気にも留めていなかった。
どこにでもいる王女であろうと、考えていた。
だけど、目の前にいるスイゴー王国の第五王女、リージッタ・スイゴーは、一人でこんな場所にやってきている事からも、普通であるとは言い難い。
「遊び?」
「ええ。遊びよ。私と遊びましょう。その遊びでグレッシオ様たちが私を満足させてくれるのならば、私は貴方の事を見逃してあげる。
――でも、満足させてくれないのなら……、私は貴方達を王宮に突き出すわ」
そう言って微笑んだリージッタは、次の瞬間、地面を蹴って飛び上がっていた。
そして何処に隠していたのか、小さな剣を取り出し、グレッシオたちに襲い掛かる。
――彼女の言う遊びが、戦いのことであるらしいと分かる。
どうやらこの王女様は、戦闘狂な一面があるようである。
グレッシオは突如として襲い掛かったリージッタの剣を隠し持っていた武器で受け止める。
「なぁ、リージッタ様、それは俺でなくちゃダメか?」
「いいえ。別に誰でも構わないわ。それにしてもグレッシオ様、結構鍛えているわね?」
――これで倒れるわけないわよね?
という確信をもって振るわれた一振りだった。
グレッシオが自分の剣を受け止めたことが楽しくて仕方がないと言った様子のリージッタは、やっぱり戦う事が好きなのだろう。
「では、俺が相手になりましょう。貴方が王族であろうとも、容赦はしません」
「あら、グレッシオ様の護衛が相手をしてくれるのね? ニガレーダ王国の騎士は強い子が多いと聞いているから、楽しみだわ。私が王族であることなんて気にする必要はないわ。王族だからと私に手加減なんてされたら嫌だもの」
ジョエロワが自分が戦いますと口にすれば、リージッタはそれはもう楽し気に微笑んだ。リージッタにとって、戦い甲斐がありそうな相手と戦えればそれでいいらしく、ジョエロワと共に野営地を離れていってしまった。
少し離れたところで野営をしている一般客に配慮してのことだろうが、そもそも王女が一人で襲い掛かってくるなという気分になって仕方がないグレッシオである。
「グレ、どうしますか。今のうちに離れますか」
「いや、待つさ。どちらにせよ、スイゴー王国の王女に此処にいることを悟られているのならば、ニガレーダ王国に逃げたところで戦争になるだけだろうし。ここで見逃してもらえるなら見逃してもらえた方が良い」
あくまでリージッタは、面白くなければ王宮に連れて行くとはいっているが、ニガレーダ王国と正式に敵対するような言葉は放っていない。
それにおそらくリージッタは、このスイゴー王国の意思で動いているというよりも、何処までも自分の意思で自分勝手に動いているように見えた。
普通の考えをしているのならば、そもそも王女がこうして一人で動いていることなど許されるわけでもない。独断で動いていることを考えるに、例え王宮に連れて行かれたとしても、こちらの対応次第ではそこまで酷いことにはならないだろう。
逆にこのままジョエロワを置いて逃げてしまえば、リージッタに面白くない存在であると思われてしまうことだろう。
「それに、ジョエロワならあのリージッタ姫にも面白いと思われる存在だと思うぞ」
「それはそうですね。ジョエロワは剣の腕が私たちの中でも一番ですし。魔法も少しは使えます。ジョエロワなら彼女を満足させることがきっと出来るでしょう。それにしてもグレもそうですが……、彼女はどうして一人でこんなところにいるのでしょうか」
グレッシオという王太子が供を少数でこんなところまで奴隷を購入しに来ていることはおかしなことである。
それ以上におかしいのは、供の一人もつけずにこんなところにいるリージッタである。
何故、彼女はこんな所に一人でいるのか。
王族というのは基本的に守られている存在である。下のものを動かし、本人は王城でドンッと構えているのが常である。
——しかしニガレーダ王国の王太子は、他国に簡単に赴いている。
――しかしスイゴー王国の王女は、供もつけずに野営なんてものをしている。
マドロラからしてみれば、一般常識とはなんなのだろうかという気持ちになる。
「まぁ、考えても仕方がないことだろう。グレもマドロラも眠ったらどうだ? 俺が起きてジョエロワたちを待っておくぞ」
クシミールはマドロラと違い、呑気にそんなことを言っている。
クシミールからしてみれば、なんとかなるだろうとでも思っているようだ。クシミールはこの面子の中でも、前向きな性格をしている。
それにクシミールはジョエロワとよく戦闘訓練をしているのもあって、ジョエロワならば大丈夫だろうという確信が強いのだろう。
クシミールのその呑気さにグレッシオは笑い、マドロラは呆れた様子を見せる。
しかし結局のところ、待つ以外どうしようもないので、順番に睡眠をとることにするのであった。
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