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「……やっぱり聖女さまの伝説が残っているところだと、ヨッドは体調を崩しているらしい」
「伝説の残っているところだから、何故でしょうか」
「伝説が残るということは、それだけ聖魔法が使われていた場所ということだろう。聖女が聖魔法を使っていた場所だと、聖魔法の使い手の体調が崩れるって考えるべきか?」
ヨッドを国内の色んな場所に連れて行き、検証が進められている。その中で聖女さまの伝承が残っている場所において、ヨッドが体調を悪くすることが多いことが分かる。
グレッシオは、その情報をヨッドについて行っている侍女たちから集めている。ヨッド自身が自覚していない情報も全てグレッシオに報告されている。
グレッシオは、その情報をもとに、聖魔法の使い手がどうして体調を崩すのかというのを調べなければならない。
「……もう数人ぐらい聖魔法の使い手が居れば……それでどうにかなりそうなんだがな」
「難しいですよね。ヨッドはたまたま奴隷として売られていて、購入することが出来たけれどもああやって聖魔法の使い手が売られていることは中々ない。とはいっても、そういう聖魔法の使い手を大々的に探すとなると……それはそれで周りが騒がしくなりますものね」
「そうだな。……聖女さまのいる土地で具合が悪くなるなんて広まればシィーリガン王国は何を言ってくるかもわからないからな」
聖女さまの血筋が亡命した国であるシィーリガン王国。
その王国はニガレーダ王国を侵略を望んでいる。もし聖女さまのいた国で聖女さまが奇跡を行った土地で聖魔法の使い手が体調不良になると知られれば――いいがかりをつけてくること間違いなしである。
グレッシオはシィーリガン王国に足を踏み入れたことはないが、間諜からの情報ではニガレータ王国への負の感情を国民に植え付けることを目指していると聞いている。情報操作をし、聖女さまがいたにもかかわらず加護を失った国だとか、神を敬わないものばかりの国だとか、そういうことばかり伝えられているらしい。
グレッシオたち、若い世代は確かに聖女さまや神のことに対してそこまで敬っている気持ちはないので言っていることは当たっていると言えるのかもしれない。
もしこのニガレーダ王国に聖女さまがいなければ――きっとこの国はそこまで栄えなかった。でも聖女さまがいなければこんな風に急速に衰えることはなかったと言えるだろう。
「シィーリガン王国との国境も相変わらずきな臭いからな。それもどう出来るか……。本気でこちらに戦争をしかけてくるつもりなのか、それともただ脅しも含めて行動しているのか。戦争になった場合、ニガレーダ王国が勝てる見込みはあまりない。そのために戦争が起こらないようにするのが一番だが……」
そんなことを言ったところで、侵略をしてこようとする存在が侵略を辞める可能性はない。そういう事情など向こうが考えてくれるはずなんてないのである。
それをグレッシオたちも十分に理解している。
たられば――の中で、良い方向にばかり考えることは危険である。どちらかというとそういう場合に限って、悪いことは起こり続けるものである。
だからグレッシオも油断したり、良いことばかり考え続けないようには気を付けている。
「でもあの国境付近は、サマネ様の領地ですからね。シィーリガン王国が何か起こそうとしても早々起こせないでしょう」
「それもそうだが……それを突破してくる可能性もある」
サマネとは、シィーリガン王国との国境付近をおさめている領主の名前である。グレッシオとも親しい仲で、食えない雰囲気の年配の男性である。結構な年だが、まだまだ元気で、動き回っている。
まったく次代に領主の座を与える気もないので、その息子は昔大変反発をしていたらしい。今は大人になって落ち着いているが、今度は孫が領主の座が欲しいと荒れているんだとか。
そのサマネのおさめている地は、屈強な男性が多い。武闘派の存在が多くそろえられている。というより、シィーリガン王国からの侵略に備えた結果、そういう国民が多くなったと言えるが。
その土地は常に侵略の危機にある。自分の領地と領民を守るためにもその土地の人々は強くなる必要があった。自分の身を守るには自分自身で守る以外にはないのだ。
最もそれはニガレーダ王国自体にも言えることだが。
そしてその国境付近の様子がおかしいとのことで人をその付近にやっている。その知らせももらっているが、今のところ、シィーリガン王国が何を起こそうとしているのか全く分からない。
――戦争か、それともただこちらにちょっかいを出して来ようとしているだけか。
それで、誰かが亡くなることがなければいいとグレッシオは思う。犠牲をゼロにすることは難しいけれども、それでも何かが起こったとしても亡くなる国民が少なければ……とそう思ってならないのだった。
だけど、そんな風に願ったところで現実はそこまで甘くはない。
全部聖女さまのせい。 池中 織奈 @orinaikenaka
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