.17
カロッルとヨッドたちが体調を崩したりしないように調整しながら、また街を巡って治癒を行ってもらうことになった。
――その過程で、体調不良になる場所がないかは確認してもらうことになっている。
というわけでヨッドはニガレーダ王国のあらゆる所に連れていかれることが決定しているのである。
この国で聖魔法を使えるのは、ヨッドとムムしか確認されていない。だからこそ、そういう場所を見つけるのを彼らしか出来ないわけである。
それで当然、一国民であるムムにそれを強制するわけにもいかないので、色んな場所に連れていかれるのはヨッドである。
あとは、赤ん坊の死亡率が高いエリアをグレッシオは調べさせている。グレッシオが、この国の現状が聖女さまがあえて生み出した状況ではないのか……、というその疑問を抱いたことは、身内だけで留められている。
病に倒れている王にも伝えられてはいない。
グレッシオたち、まだ若い世代は、聖女さまに対する信仰心のようなものが少ない。それでも年を重ねた者達は聖女さまのことを信頼していて、心優しい清らかな存在だと思っているから。
「はぁ……はぁ」
「ヨッドさん、大丈夫ですか」
「いや……、此処は中々キツイです」
「……集落などのない場所ですが、此処はそういう場所なのですかね」
ニガレーダ王国内で治癒が必要な者たちを癒すために馬車に揺られるヨッドは、今度は街中ではなく、道中で体調不良に陥っていた。
街に近づいたからというわけではない。ただ通り道で、そういう事が起こっていた。
「……このあたりは、何かありますか」
「……そうですね。このあたりは聖女さまが滞在していた記録がありますね。昔はこのあたりにそれなりの大きさの村があったようですが、度重なる不幸があり村はつぶれてしまたっといいます」
ヨッドの言葉に旅の供をしている侍女がそんなことを答える。
この侍女は、グレッシオから聖女さまとの関連も含めて、記録をとるように言われていた。
その侍女は、聖女さまとこの土地のかかわりを思い起こしている。
――むかし、むかし。
この場所には恐ろしい魔物がいた。その魔物を倒すために多くの戦士が傷つき、その命を散らしていきました。
その時に、村のために死力を尽くしてくれたのが聖女さまでした。心優しい聖女さまは、傷つく人々の傷をいやしました。聖女さまというどんな怪我でも病でも治してしまう存在がいたからこそ――その恐ろしい魔物を倒すことが出来ました。
王族に嫁ぎ、何処までも高貴な立場である聖女さまが村人のために立ち上がり、国民のたちのために力を尽くした。その伝説はこのあたりには伝えられている。
聖女さまは、この国で多くの伝説を残しているのだ。その伝説は数多に渡る。
侍女は、もしそういう伝説のある場所全てが聖魔法の使い手にとって生きていくのが難しい場所なのだろうかと考えるとぞっとしてしまう。
ヨッドも聖女さまに関するグレッシオの考えを知っているわけではない。だけれども推測することは出来る。
ヨッドにとって、この国は生きやすい場所ではない。それでもグレッシオに買われた奴隷であるため、このニガレーダ王国で働く以外の道はない。
ヨッドはグレッシオのことを、悪い主人とは思っていない。もっと非人道的な主人は山ほどいる。そういう主人に比べれば、グレッシオはきちんとしているのだ。
ヨッドの意見も聞いてくれる。こうしてニガレーダ王国内を見て回ることを途中で中断したとしてもグレッシオは認めてくれるだろう。そのことは十分ヨッドも分かっている。
それでもヨッドはグレッシオの命令に対して否とは口にしなかった。……それはグレッシオがこの国のために一生懸命行動しようとしていることが分かっているからと言えるのかもしれない。
「――そうですか」
ヨッドはそれ以上の話を侍女たちから聞くことはなかった。結局ヨッドが王国の至るところを赴いて情報を持ち帰ったとしても――その情報をどのように使うのかはグレッシオ次第である。
ヨッドが出来ることは、グレッシオの命令通りの行動を起こすだけだ。それでいてグレッシオが望む以上の情報を手に入れられるのならば、それが一番いい。
――自分の命を落とさないようにしながら、情報収集をし、聖魔法を使って人の命を助ける。
言葉にするだけならば簡単なことに聞こえるかもしれないが、それは難しいことである。
その難しい事をこなすために、ヨッドは動いている。
――そしてその伝説のある村のあったエリアを過ぎれば、ヨッドの体調も大分楽になっていた。
「体調がよくなったようで良かったです。行けますか」
「はい。行けます」
ヨッドはそれから街に足を踏み入れた。
その街で治癒師を必要としている者たちに魔法をかけていくのである。
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