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グレッシオたちは、そのまま奴隷の女性とマドロラに懐いている孤児の女性――キャリーを引き連れて、宿へど戻った。
グレッシオはほくほく顔である。ひとまず闇オークションへの参加することが出来たのだ。それだけでもグレッシオにとっては、十分な成果であった。
奴隷の女性は、名前さえもグレッシオたちに伝えはしない。グレッシオに買われた奴隷ということもあり、グレッシオに進んで反抗はしないものの、グレッシオたちの事を睨みつけるように見ている。
マドロラの隣を歩くキャリーは、不安そうな表情のままだ。そんな中でグレッシオたちはいつも通りである。一切の動揺もしていないといった様子で宿に戻ったのだ。
宿の店主は急に人が増えたこともあり、驚いた様子だったが、その分のお金を払えば何の文句も告げなかった。
奴隷を連れた富裕層というのは、この街にも少なからずいるもので、奴隷の一人が増えようとも特に何も言わないのであった。
ちなみにキャリーも奴隷の女性もマドロラとジョエロワの部屋に眠ることになった。
流石に出会ったばかりの人間をグレッシオと同じ部屋に泊めるのは抵抗があったからと言えるだろう。
ひと眠りする前にグレッシオたちは奴隷の女性と会話を交わすことにした。
そのころには一人別生活をしていたジョエロワも宿へ戻ってきて来た。ジョエロワはグレッシオが早速治癒師の奴隷を手に入れたことに驚いた様子を浮かべていたが、「流石グレです」と満面の笑みを浮かべるのであった。
ジョエロワは、グレッシオという王太子の事を心から信頼している。グレッシオ・ニガレーダという少年がどういう存在なのか把握しているのだ。王太子だからというよりも、グレッシオだからこそ、ジョエロワはグレッシオのことを信用しているというべきだろうか。
奴隷としてグレッシオに買われた女性は、この自分を購入したグレッシオたちがどういう集まりなのか全く分からないといった様子で戸惑いを見せている。
グレッシオ、ジョエロワ、クシミールといったまだ若い少年三人。
一人のスカートをはいた少女であるマドロラ。
その足にしがみついている小さな少女、キャリー。
奴隷として買われた女性からしてみれば、この集まりが何の集まりなのかが分からない。
「貴方、名前はなんですか」
「……それを言う必要はありますか」
「ありますよ。貴方には十分働いてもらう予定なのですから、名前を知りたいと思うのは当然でしょう?」
同じ女性というのもあり、奴隷の女性の話を聞こうとマドロラが話かけているのであった。
赤髪のその女性は、首に奴隷の首輪をつけたまま、訝し気にマドロラのことを見る。
マドロラが何を言っているのか、やはり女性には理解出来ないらしい。
酷い扱いを受けるだろうと連れていかれれば、特に命令をされることもなく、ただ質問をされているという状態はその状態はその女性にとってみれば訳が分からないのも当然である。
非正規の奴隷として売られた時から、女性は未来に対して絶望をしていた。
この後、買われた後に酷い扱いが待っていると女性は確信していたのだ。治癒師として死ぬまでこき疲れるか、それとも見目が良い女性を性奴隷として使われるかといったそういう未来を予想していたのだ。
だというのに、同じ宿の部屋に泊まらせようとし、奴隷の名前などどうでもいいだろうに名前を聞いてくる。
非正規の奴隷商に奴隷を買いにきて、闇オークションにまで参加しようとしている相手がまともであるはずはないと思えるのに、目の前のグレッシオたちは悪い人間にはそこまで見えなくて、それが余計に女性の事を戸惑わせる。
「安心してください。貴方はグレの奴隷ですが、グレは貴方が思っているようなひどい奴隷の末路に貴方を導きはしません。私たちは貴方が必要だと思ったから貴方を買いました。貴方の治癒師としての才能を是非とも使っていただきたい場所があるというだけです。
いわば私たちは同僚になるのです。もちろん、奴隷と言う立場は変わりませんが、それでも一般の奴隷よりは良い暮らしが出来ることを保証しましょう」
あくまでグレッシオたちが彼女を購入したのは、ニガレーダ王国に正式な治癒師うのが一切いないからである。ニガレーダ王国の国民達が病に陥った時の助けになるように必要だと思ったからだ。
ニガレーダ王国の国力の低さから、奴隷としてではないと治癒師を国に招くことも難しい。だからこそ、奴隷として購入をしたのである。
女性は意味が分からないと思いながらも、マドロラの言葉に嘘がないと思ったのか口を開く。
「私はカロッルです」
赤髪の女性は自分の名をカロッルと名乗った。
このスイゴー王国の出なのだろう。スイゴー王国の訛りが強い言葉使いである。スイゴー王国とニガレーダ王国は隣接しているというのもあり、言葉はほぼ同じである。ただ訛りといった細かい点が異なる。
カロッルの方も、グレッシオたちの訛りから彼らがこのあたりの出ではないことは把握していることだろう。
「カロッルだな。これからよろしく頼む。マドロラが言ったように、ひどい真似をするつもりはない。ただ治癒師として活動してほしいだけだ」
「……そうですか」
「もちろんすぐに信じてくれないことは分かっている。だから俺の言っていることが真実かどうかは、実際に俺たちの所で働けばわかるだろう」
グレッシオはそう言って、カロッルに笑いかけた。
カロッルはその言葉に信じられないといった様子だが、小さく頷くのであった。
「マドロラお姉ちゃん、あの人、本当にひどい目にあわないの?」
「ええ。私たちはカロッルを酷い目に合わせる気はありません」
キャリーの不安そうな言葉にも、マドロラはそう言って笑いかけるのであった。
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