.20



 カロッルは、目を覚ました。

 ソファの上で目を覚まして、あたりをきょろきょろと見渡す。



 ――ああ、そうか。自分は買われたのだ。



 それを理解して、不思議な気持ちに陥ってしまう。



 カロッルは、つい昨日、グレッシオの手によって買われた。カロッルにとってみれば、グレッシオたち一味というのは一言で言えばよく分からない存在である。



 カロッルは昨日、買われた後にマドロラとジョエロワの部屋で眠ることになった。二つのベッドのうち、一つにジョエロワ、もう一つにマドロラとキャリーが眠っている。カロッルは場所がないというのもあり、ソファで眠っていた。



 カロッルの立場はあくまで奴隷である。それでも非正規で買われた奴隷であるので、床で寝ろと言われたり、性のはけ口にされるのではないかとも考えていた。だというのに、カロッルはグレッシオたちにそういう扱いを求められていなかった。



 グレッシオたちのカロッルに対する態度は、奴隷に対する態度というよりももう少し砕けているように感じられた。

 


 何のために自分を購入したのか、何のために此処に居るのかも分からない。

 視界の中で他の三人は眠っている。だけれども、マドロラとジョエロワは眠っているとはいえ、隙がないように見えた。




 この集まりが何のかは分からない。しかし闇オークションには参加するというのは把握しているので、やはりカロッルの頭には不安がよぎるのも当然である。



 ただでさえ、奴隷という立場に落ちているので、もっと悪い立場へと落ちていくのだろうかと不安を感じるのも当然と言えば当然であった。






「おはようございます」



 カロッルが未来のことを考えて不安を感じている時、マドロラが目を覚ました。




 今、目を覚ましたばかりだろうにマドロラは眠たそうな様子など欠片も見せない。ベッドの上に腰かけるマドロラは、目を覚ましたその時からマドロラは霧ッとした顔をしている。






「お、おはようございます」

「昨日はよく眠れましたか?」

「……はい」

「それは良かった」



 マドロラの笑みに、カロッルはただ答える。



 カロッルには、マドロラという少女のこともよく分からない。目の前の愛らしい姿をした少女は、何処か、油断が出来ない雰囲気を纏っている。







「あの……、貴方達は何をしようと思っているのですか。闇オークションに参加しようとしているのは聞きましたが」

「私たちは私たちの目的のためだけに、闇オークションに参加しようとしているだけですよ」



 マドロラは、カロッルに対して明確な回答をしない。それは此処がスイゴー王国であるからというのもあるだろう。詳しく話すにしても、ニガレーダ王国に戻ってからになることだろう。






 マドロラはそれ以上語ることはない。

 カロッルを一瞥したかと思えば、ジョエロワを起こす。




「起きてください。ジョエロワ」

「……おはよう」



 ジョエロワもマドロラに声をかけられると、すぐに目を覚ました。そしてすぐさま着替えをすませる。異性の前だというのに、ジョエロワはさっと着替えてしまう。

 カロッルは「ななななっ」と手で顔を隠す。カロッルはその年代にしては、そういう経験が一切ないのかもしれない。



 逆にマドロラは一切、戸惑った様子を見せない。異性が隣で着替えていようがまったく気にした様子がないのは、マドロラがジョエロワに対して同僚という認識しかないからと言えるのかもしれない。

 そもそもそんなことを気にするような関係であるのならば、同室で睡眠など出来るはずもない。



 ジョエロワは着替えをさっと済ませると部屋から出ていく。






「カロッルはこれを着てください」

「え、ええ」



 マドロラから現在、マドロラが身に纏っている服と似ている白いスカートの服を渡され、カロッルは着替えを済ませることにする。

 着替えを済ませたカロッルは、やはり不思議な気持ちに苛まれる。




 奴隷として落とされてからこのような綺麗で清潔な洋服を身に纏うことはなかった。最低限の服装や食事は与えられてはいたが、それだけである。




 





「また戻ったら新しく服を買いに行きましょう」

「奴隷の私に、ですか?」

「ええ。私たちは貴方を奴隷として購入しましたが、奴隷としての役割を求めているわけではありませんから。だから身の回りの物の世話ぐらいはきちんとしますよ」




 マドロラはカロッルという存在を奴隷というよりも、新たな同僚という立場として受け入れている。



 だからこそそういう風に話しかけるわけだが、カロッルからしてみれば、やはりよく分からないとしか思えないのである。

 それでもマドロラから悪意というのも感じられないので、カロッルはマドロラにされるがままにされているのだ。





「……マドロラお姉ちゃん」

「キャリー起きましたか」

「うん。おはよう」

「おはようございます」



 そうこうしているうちにキャリーが目を覚ます。

 キャリーが寝ぼけたように挨拶をすれば、マドロラも挨拶を返すのだった。





 話しているうちにぐぅうとキャリーのお腹が鳴った。キャリーは恥ずかしそうにお腹を押さえる。




「グレを呼んで、食事を取りましょう」



 マドロラはキャリーにそう告げ、部屋から出ていく。

 カロッルとキャリーはそれについていくのであった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る