.21





「このパン美味しいな」

「そうですね、グレ」

「パンについているジャムも美味しいぞ」

「こっちのポテトも美味しいな」



 グレッシオたちは、和やかに宿の食事を食べている。



 そのすぐ近くに座るキャリーとカロッルは、黙々と食事を取っている。

 キャリーはマドロラに話しかけたいと思っているが、マドロラがグレッシオたちと会話を交わしているので、話しかけられていなかった。

 そしてカロッルは奴隷でありながら同じ席で朝食を食べることになり、やはり意味が分からないという様子である。




 




 ――何故、自分はこの場で共に食事を取っているのだろうか。



 そんなことを考えているカロッル。カロッルの手が動いていないのを見ると、マドロラが見かねて声をかける。






「食べないのですか?」

「……食べます」




 マドロラに声をかけられて、考えても仕方がないとフォークを進めて、食事を取るのであった。





 朝食をとり終えた後は、マドロラがロドーレアの元へと向かった。闇オークションの詳細を聞きに向かっているのだ。






 グレッシオとクシミールは、明日、先の街であるデジチアの街へ向かうために準備を進めていた。

 グレッシオは王太子であるが、こういう時には黙って待っているよりも行動したいと思う方なのであった。



 あとはほぼ初対面であるキャリーとカロッルと過ごすのも気まずかったというのもあるかもしれない。

 グレッシオが奴隷を持つのも初めてだからというのもあるかもしれない。



 ニガレーダ王国は前述しているように、小さな国である。奴隷を仕入れに来る奴隷商は居ても、奴隷を売りに行くものはいない。——そんな国の王太子なんで、奴隷を購入したのは初めてであり、国のために購入したもののどう接するべきかというのは悩みどころであった・




「グレ、奴隷相手にそんな悩むなよ」

「……いやー、そう言われてもな。奴隷なんて馴染みないし」

「数日後には闇オークションに行くんだろうが。おじけついたのか?」

「おじけついてはないさ。ただ慣れないだけだな」



 クシミール自身も、本当にグレッシオが怖気ついているとは思っていない。それでもそう口にしたのは、グレッシオの背中を押すためであると言えるだろう。

 王太子とその護衛がこんな会話を交わすなど、普通ならありえないかもしれないが、そこはニガレーダ王国がそれだけ小国だからということだろう。



 グレッシオとクシミールは軽い足取りでウキヤの街を歩いていく。






 グレッシオたちは歩く中で、一人の女性に目を止める。

 その女性は、目的地が定まっているのだろう――、すたすたと足を進めている。その足取りは軽い。



 何故、グレッシオがその女性を目を止めたのはなんとなくである。



 ただバンダナの脇からはみ出た金色の髪が目に止まったというべきか、その足取りが気になったというか、そんな些細な注目である。

 その女性は、グレッシオの視線に気づくことなく、その場から去っていった。




「グレ、どうした?」

「いや、なんでもない。それより行くか」




 クシミールはグレッシオに声をかける。グレッシオはそれに何でもないと口にし、また二人は歩き出す。



 二人はこれからの旅路のために乗り合い馬車の手配をし、食料などの旅に必要なものを準備をしたりする。




 王太子という立場であるが、庶民的なものに精通しているグレッシオは途中途中で屋台で寄り道をして食事をしていた。

 屋台で売られる食事というのは、片手間で食べられるようなものが多い。グレッシオはスイゴー王国の屋台の中で、ニガレーダ王国の中でも作れるようなmのがないかというのを模索している。




 とはいえ、スイゴー王国とニガレーダ王国は、隣接しているとはいえ、その文化というのは全く違うのである。




「なぁ、これ再現できると思うか?」

「いや、これだと難しいだろう。それに此処だからこそ流行っているものもあるだろうし、真似しても意味がないからなぁ」

「だなぁ……」


 などと会話を交わしながらグレッシオとクシミールは、旅の準備を終えると屋台を巡り何か面白そうなものがないかと探しまわるのであった。

 ただ遊んでいるだけというのではなく、このウキヤの街の事をもっと知り、ニガレーダ王国に役に立てたいと考えているのだ。





 グレッシオたちが宿に戻った時、宿の部屋に居るジョエロワ、キャリー、カロッルはそれはもう静かに過ごしていた。



 そこに会話は何一つない。キャリーもカロッルもぼーっとしているだけで、ジョエロワも黙々と何かを読んでいた。

 ジョエロワとしてみても、キャリーにもカロッルにもそこまで関心はないのかもしれない。





「戻ったぞ」

「おかえり、グレ、クシミール」

「ジョエロワ、マドロラは?」

「まだ戻ってない。奴隷商と話した後に、情報収集でもしているのだろう」



 グレッシオがジョエロワに声をかければ、まだマドロラは戻っていないのだという。


 マドロラが戻ってきていないからこそ、キャリーは今、物静かなのだろう。







 その後、マドロラが戻ってきて、グレッシオたちは互いに集めた情報を交換するのであった。

 グレッシオたちはその翌日、ウキヤの街を後にすることになった。





 ――その後、ウキヤの街の裏通りにある一部の非正規の店が一部粛正され、ウキヤの街は騒がしくなったのだが、それはグレッシオたちは把握していない話である。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る