.23
夜が明け、また馬車に揺られ、グレッシオたちはデジチアの街へとたどり着いた。
夜の間、マドロラたちが目を光らせていたのもあり特に問題というのは怒らなかったのである。
カロッルとキャリーは一夜明けても眠たそうで、馬車の中でもぐっすりと寝ていた。乗り合い馬車は高級馬車に比べれば、揺れが大きく、寝にくいだろうにぐっすりと寝ている二人はよっぽど疲れがたまっていたのだろう。
「……マドロラお姉ちゃん、眠い」
「もう少し頑張ってください。キャリー」
眠たそうなキャリーの手をマドロラは引く。
まず真っ先に宿を取りに向かった。デジチアの街もウキヤの街と同じぐらいに活気のある街である。ただしウキヤの街よりも裏通りのようなものが顕著に存在しているわけではない。
こんな明るい印象を持たせる街で、闇オークションが行われるというのは想像しにくかった。
でもだからこそ、誰もがこんな場所で闇オークションが行われないだろうと思っているからこそ、この場所で闇オークションを行おうとしているのであろうというのが分かった。
宿をウキヤの時と同様に二部屋取る。
「二日間、どうするか? 自由行動するか?」
宿で一息を付いたグレッシオは、周りに向かってそう問いかける。
マドロラたちはそれに頷く。一先ず闇オークションに参加することは決まっているので、それまでの二日間の間は、自由行動でも問題がないだろうと考えてのことである。
あとはただ単にグレッシオ自身がデジチアの街を見て回りたいからという理由ももちろんあった。
グレッシオは闇オークションを前に、デジチアの街を思いっきり見て回ろうと楽しむ気満々になっている。ついでに街を見て回って、何かしらニガレーダ王国のためになる事も見つけたいという気持ちもある。
グレッシオは、長時間の移動でも疲れた様子を見せずに、街を見に行こうと歩き出す。その後ろをジョエロワがついていく。
「此処は教会が大きいな」
「デジチアの街は高名な神官がいるという噂ですし。それ目当てに此処までくる人もいるらしいって話だから」
「へぇー」
グレッシオたちは把握していなかった話だが、このデジチアの街には高名な神官がいるらしい。その神官は聖魔法も使えて、この街で慕われているらしい。
神官という存在に、グレッシオたちは特別な意味を持たない。神の施しをニガレーダ王国の民はあまり感じることが少ない。
王族であるグレッシオも、神に祈ることはない。祈るとしても、信じるにしても、自分自身――特に聖女さまが亡くなってから生まれたニガレーダ王国の国民はそのように考えているものの方が多い。
グレッシオとジョエロワは、興味本位でその巨大な教会の中に入ってみることにした。
その教会を一目見て感じる印象は、真っ白で、何処か力を感じると言ったものだろうか。白い教会にはステンドグラスがいくつも設置されている。上部には十字架の飾りがついている。
ニガレーダ王国の教会というのは、もうすっかり寂れた建物と化している。二十年前の混乱で破損して以降、修復というのはそこまで進んでいない。一部、修復されている教会もあるが、このデジチアの教会のような神秘的な雰囲気は一切ない。
中に入れば、多くの人々が救いを求めてこの場所にいる。
このデジチアの街では、信仰心の強い民の方が多いのだろう。この街の人々はよく教会に祈りに来るようだ。
今から高名な神官のありがたいお話がされるらしい。
「――神はいつでも私たちを見ています。ですので善行をなしなさい。さすれば救いは訪れます」
そんな感じの話をその神官はしていた。
グレッシオとジョエロワは退屈さを感じながらも、その話を聞くのであった。流石に退屈とはいえ、退屈だと前面に出すことはしない。そのようなことをしてしまえば、あと数日此処に居る予定なのに、居にくくなってしまう。
その後、体調が悪いという信者たちに聖魔法をかける様子をグレッシオとジョエロワは見る。
高名な神官の後ろには、見習い神官だという少年が数人控えている。
聖魔法を行使する時、その場が光り輝いた。
それに周りは奇跡だ、流石だと声をあげている。
「なぁ、ジョエロワ」
「……そうだな、グレ」
周りの熱気とは正反対に、グレッシオとジョエロワは冷静だった。
聖魔法というのは、いちいちこんな風に光を発するものではない。確かに聖女さまの派手で大規模な聖魔法であるのならば大きな光を生んだとも言われているが、こんな小規模な聖魔法でこのように光り輝くことはまずないと学んだ記憶があるのだ。
なのでこうやって光り輝かせているのは一種のパフォーマンスであると言える。
「……後ろだな」
「ああ」
そしてグレッシオたちが気づいたもう一つのことは、聖魔法を発しているのが高名な神官と言われている神官ではなく、後ろに控えている神官見習いの少年の一人だというのに気付いたのである。
それに気づいてしまえば、なんといえばいいのか高名な神官というのが張りぼてのように感じられた。
グレッシオとジョエロワは、その後、教会を後にするのであった。
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