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 ――お母さんのことを助けてほしい。そう告げた少年の後ろをカロッルたちはついていく。



 少年の突然の申し出に驚いたものの、治癒師を求めているというのならばそこに向かわない理由はない。


 奇跡の街と呼ばれるこの街で、治癒師を求める人などいないのではないか――そう思っていたため、カロッルたちはその申し出に驚いたものである。


 そしてたどり着いた先は、小さな一軒家である。外装は寂れていて、落書きのようなものを施されていたりもする。……もしかしたらこの少年だけではなく、この家族自体が疎まれて生活しているのだろうか。




 奇跡の街などと言われ、聖女様が存在していた痕跡が多く残されている光あふれる土地と言えるような場所で――このような面があるとは思わなかったものである。

 この街を訪れたことがあった侍女たちもこういう一面を知らなかったと言っているのを聞いて、カロッルは何とも言えない気持ちになる。



 例えば外から見てみれば光り輝く、美しい面しかないような奇跡の街だったとしても全員にとってそうであるとは限らない。——そしてそういう綺麗な面を前面に出している場所だからこそ、余計に後ろ暗い部分は深く広がっている。



「お母さん、治癒師連れてきたよ!!」



 少年がそう言って扉を開ければ、そこにはベッドに寝そべっている女性がいる。何処か少年と似ていて、血が繋がっているというのがよく分かる。




「治癒師様……?」

 


 女性は体を起こすことがつらいのか、首をカロッルたちに向ける。そして自分の息子が何人もの人々を引き連れているのを見て、慌てて起き上がろうとする。




「起き上がらなくて良いです! 貴方は何か病気を患っているのでしょう? ならばそのまま体を楽にしていてください」



 カロッルは起き上がろうとするその女性に、慌ててそう声をかける。


「ねえ、お母さんのことを診てよ!」

「はい。構いません。失礼いたします」




 カロッルはそう言って、女性へと近づく。そして女性の脈を図ったり、体の状況を確認する。



「……魔力酔いを起こしている時と同じような症状でしょうか。それにサイレー草を飲んでしまったのでしょうか。後遺症の症状がみられるように思えます」



 その女性の症状は魔力にあてられて体調不良を起こす現象と類似しているように思えた。あとは毒草を口にしたのか、その後遺症のような症状も見られる。その毒草は少量だと人体に及ぼす影響は少ないものだ。ただ人によっては毒草の効果が効きやすい体質の人もいるので、もしかしたら目の前の女性はそれに該当するのかもしれないとカロッルはあたりをつける。




 一先ず、女性——ムムの容態を少しでも良くする必要があるため、カロッルは手持ちの薬で、彼女の状況にあう薬があるだろうかと思考する。魔力酔いというのは通常ならば、時間経過で解消していくことが多い。そしてそれでも解決しないほどの魔力を浴びたというのはどういうことなのかカロッルには想像がつかない。

 何とか魔力酔いに効く薬を一つだけ持っていたのでそれを飲ませる。……でももう他にその薬はない。材料がそもそも手元にない。この後、同じような症状を持っているものが居れば動きようがなくなってしまうので、何かしら材料を手にする手立てを取らなけばならないだろう。



 そして毒草の後遺症に関しては、身近にあるもので後遺症を和らげることが出来る。

 レレンという果実の汁を絞って、それに木の実をつぶしていれる。それだけである。



 ムムは、カロッルから処置を施され、少し体が楽になったようだ。とはいえ、相変わらず顔色は悪い。






「――ありがとうございます。治癒師の方がいらっしゃってくれて助かりました」

「私はグレッシオ殿下の命に従っているだけです。それよりお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」

「はい」

「サイレー草の後遺症を和らげる情報に関しては結構知れ渡っている情報です。貴方はそれを誰にも聞くことはなかったのですか? それに母親が病気にかかっているというのにこの街の人々は、この子を気に掛けることなどしないのですか?」



 サイレー草の後遺症を和らげる処置の方法というのは、知っている人は知っていると言える情報である。サイレー草は、街などの近くに群生していることが多く、間違って子供が口に含んでしまうことも当然あるのだ。



 だからこそその処置の仕方はそれなりに伝わっている。カロッルが隣の侍女に視線を向ければ侍女も頷く。ということは、このニガレーダ王国内でも広まっていることなのだろう。


 ならば何故、その情報がムムに伝わらなかったのか。


 そして親子二人で、親が病気であるのならば小さな子供を気に掛ける者が一人もいないというのも不思議だった。それどころか、子供の方は虐めまで受けている。





「……この街が聖女さまに救済された街だとはご存じですか?」

「はい。知っています」

「この街は奇跡の街と呼ばれ、聖女さまの加護が続いているのかほとんど体調を崩すものはいないのです。だからこそ……私のように常時体調不良を訴えているような者をこの街は住民として認めません」




 ムムはカロッルたちの目を真っ直ぐに見て、そう言い切った。



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