.12
「……カロッルももう戻ってくるみたいだな」
「カロッルさんも? やはり何かあったのかな?」
その日、グレッシオ・ニガレーダは、王城に戻ってきていたヨッドと会話を交わしていた。
ヨッドの体調は、すっかりよくなっている。
ベベの街に辿り着く前に体調を崩し、王城に戻ってきたものの、特に治療などすることなく回復していた。
ヨッドについていた侍女から聞いた話では、ベベの街に近づいた時は本当に体調が悪そうだったらしい。だが、ベベの街から離れ、王城で少し休めばすっかりその体調は良くなった。
――それに何か意味があるのだろうか。たまたまと考えることも出来るかもしれないが、グレッシオの勘はそうではないと言っていた。
そして会話を交わしている中、カロッルたちからの報せが先に届いたのだ。
一度、ベベの街で体調を崩していた女性とその子供と共に王城に戻るのだと。
ヨッドがベベの街に近づき、体調を崩したのも――。
その女性がベベの街で体調を崩しているのも――。
きっと何かしらの理由があるのだろう。
「カロッル自身にはないみたいだが、ベベの街には問題があるみたいだ。詳しくは戻って来てからじゃないと分からないだろうけどな」
「……そうですか。俺もあの街はおかしいと思います。いえ、あの街だけではなく、この国自体……何だか体が重いというか……」
ヨッドはグレッシオに嘘をついても仕方がないので、正直に口にする。
ヨッドはずっと感じていたのだ。この国は何処か異質だと。まだ若いヨッドは、スイゴー王国とニガレーダ王国しか知らない。けれど、この国は異質だとそう感じる。
「聖魔法の使い手がこの国に居ないのにも……もしかしたらこの土地柄が関係しているのではないかとも思います。俺はこの国に来て間もないですけど……聖女さま以来、聖魔法の使い手がいないのは異常ですし」
「そうだな……。聖女さまが存命中は、聖女さま以外がいないのは必要なかったからと言えるが、聖女さまが没した後も全くいないのは変だからな」
聖魔法の使い手が、全くいない。——それも聖魔法の使い手として名を馳せた聖女さまが没した後、誰一人として現れないのは異常である。
それがこの土地自体が関係しているのならば、それ自体をどうにかすることは難しいだろう。——それでもこの国のためにも、グレッシオはそれを改善していきたいとそう思っている。
それでもこの国がそうなったのは――聖女さまが現れ、聖女さまが没したことが一つの転換期になっているとはいえるだろう。
――やはり、聖女さまのことをもっと知る必要がある。
そうグレッシオは考える。
しばらくそんな会話をグレッシオとヨッドは交わした。ヨッドはそれから、自室へと戻っていった。
グレッシオ・ニガレーダは、ヨッドと交わした言葉とカロッルたちからの報せのことを考える。
「グレッシオ様、ベベの街は問題が深そうですね」
「そうだな。聖女さまの威光の象徴でもあった奇跡の街――そんな街で大きな問題があるなんて思わなかったけどな」
「聖魔法の使い手を迫害しているというのならば、グレッシオ様が分からないのも当然です。もしかしたらベベの街以外でも、同じような現象が起こることもあるかもしれません」
「そうだな。この国はやっぱり様々な問題がある。まずはカロッルたちが戻ってきたら、ベベの街の領主に話をつけにいかないと」
正直言って、それぞれの思考というのは自由だ。
どんなものを持ったとしてもそれはそれだ。
だけど、ニガレーダ王国としてみれば、治癒師をこれからも増やしていこうとしているのだ。治癒師を迫害されるのは困る。
思考を少しずつずらしていく――それが出来なければ、ベベの街自体を見捨てるしかないかもしれない。
結局の所、王族であると言えど、全てを救うことなど出来るわけではない。国民すべての味方であれるのならば理想かもしれないが、そんなことは出来ない。
現在、ベベが奇跡の街と呼ばれ、死者が他に比べて少ないとはいえ、この後もその奇跡が続くのかと言えば、そうではないと言えるだろう。今は彼らは治癒師を街から追い出してもやっていけるかもしれない。
でもいずれ、彼らが治癒師を求めた時に――、見捨てなければいけないかもしれないのだ。
ベベを含む複数の街をおさめている領主は、グレッシオの意見に賛同している。そのため話を通せば、ベベの街の思考を誘導する手助けはしてくれるだろう。
――ただし長い間、ずっとそういう思考に染まっていた街が簡単に思考を変更できるとは思えないが。
前途多難だと、そんな風にグレッシオは考えてしまう。
――この国を少しずつ良くしていこうとしているが、そうすればするほど問題が湧き出てくる。
やはり、このニガレーダ王国という国は、多くの問題を抱えている。
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