.13
「ただいま戻りました、グレッシオ殿下」
カロッルたちが王城へと戻ってきたのは帰宅するといった手紙が届いて数日たってからである。
それまでの間に、グレッシオはベベの街に関する情報を集めていた。聖女さまが居た頃の王家の記録が全て残っているわけではないので、ベベの街の情報というのもすべてあるわけではない。
このニガレーダ王国が今のニガレーダ王国の形になってからの資料は領主から贈られてきている。とはいえ、その領主の資料には、特に今回の問題点に関わることは書かれていなかった。
死者の記録はあるが、他の街より死者が少なく、領主にとってベベは良い街であったのだとよく分かる。
――領主も常にベベの街に居るわけではない。だからこそ、ベベの街の特異性というのが露見していなかったのだろうというのが分かる。
今一度、ベベの街について調べて、何とか対応していく必要があるだろうとグレッシオは考えていた。
戻ってきたカロッルたちを出迎えたグレッシオは、「ご苦労様」といたわりの言葉を口にする。
「ベベの街についての報告を聞こうか」
手紙だけでは正確な概要というのは分からない。グレッシオは、カロッルや侍女たちに視線を向ける。
グレッシオの執務室の前に置かれた椅子にそれぞれが並んで座っている。
ムムとその子供に関しては、まだムムの体調がすぐれないというのもあり、この場にはいない。体調が回復次第、彼らから話を聞くことにはなっている。
「ベベの街ですが、私が治癒師だと知った途端態度が悪くなりました。あの街は聖女さまという存在に傾倒しており、聖女さま以外の治癒師を認めないといった意思が強い街でした。
私が治癒を求めている方はいないかと捜し歩きましたが、はやく出て行ってほしいといった態度でした」
「今まであの街に行ったことはありましたが、まさか治癒師であるかないかで此処まで態度を変えるとは思いもしていなかったので驚いたものです。まさかあの奇跡の街と呼ばれる街があそこまで偏った思考を持っているとは思いませんでした」
カロッルの言葉に同席していた侍女が口を開く。
治癒師をこの国で増やしていこう――それを目標にしているグレッシオはその言葉に頭を抱えたくなる。
まさか、治癒師という存在を必要と思わない。寧ろ治癒師なんて聖女さま以外いなくて良い。そんな思考を持つものがいるなど思っていなかったのだ。
――とはいえ、世の中というのは自分の知らない考えを持つものは少なからずいるものである。今回グレッシオは自分では理解が出来ないそういった存在がいることを知って驚きで一杯であった。
これが他国の話ならば放っておくが、ニガレーダ王国内にある街なのだ。これから聖女さま以外の治癒師を増やしていきたいグレッシオは、あの街をどうにかしなければならないだろう。
少しずつでも意識改革を進めていくか、それとも他国に追放又は街ごとつぶすか。
結局の所、聖女さま以外の治癒師以外いらないという凝り固まった考えが簡単に変わるかどうかといえば、その思考が強ければ強い程難しいだろう。
だからこそ本当にどうしようもない時は、グレッシオは王族として決断をしなければならない。すべての意見を聞いて、誰にも憎まれずに国をおさめることなど出来ないのだから。
「そしてムムさんたちに出会いました。ムムさんは体調不良で倒れていました。だけど、あの街は体調不良になるものが驚くほどに居ないようで、そういう存在は驚く事にあの街では住民と認められなくなっていました」
「奇跡の街と呼ばれているのは何らかの要因で体調不良になるものが少ないからということが原因でしょう。聖女さまが昔奇跡を起こしたという事実があるのでそれが何かしら関係があるのかもしれません。――また調べていないので分かりませんが、ヨッドさんがベベの街に近づくことで体調を崩したように、もしかしたらムムさんもヨッドさんと同じなのではないかと思います」
報告の中で、一緒にベベの街へ向かった侍女がそう口にした。
「ヨッドと同じ?」
「はい。もしかしてムムさんは聖魔法の適性があるのではないでしょうか。体調不良になったヨッドさんとあの街に行くことが出来たカロッルさん、同じ治癒師である彼らの違いは聖魔法を使えるかどうかではないでしょうか。なのでもしかしたら……ムムさんは聖魔法の適性があるのではないかと。もしそうであるならば、あのベベの街では聖魔法の使い手が体調不良になる何かがあるのではないかと推測を進めることが出来ると思います」
――もしかしたらムムは聖魔法の適性があるのではないか。
ベベの街に向かい、ヨッドが倒れた事実とムムが体調不良になっていた事実から侍女はそう考えたのだ。
あの奇跡の街には、何かしらの要因で体調不良になるものが少ない。
そしてあの街では聖魔法の使い手が倒れてしまう何かがある。
その可能性が高いと侍女はグレッシオに告げた。
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