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「はぁ……」


 ヨッドは地面に座り込み、息を整えていた。


 今は、ヨッドの体調を整えるために休憩をしている。焚火の側で座り込むヨッドの顔色は悪い。





「ヨッド、大丈夫ですか」

「……大丈夫です」

「聖魔法というのは、それだけ疲労を擁するものなのですね」



 カロッルが隣からそう声をかければ、ヨッドは侍女からもらった水を飲む。そして一息をついて、ヨッドは口を開く。



「……確かに聖魔法を使うのは元々疲れるものです。魔法を使うというのは、それだけ疲労し、力がどっと抜けていく感がある。だけど、此処で聖魔法を使うのはまた違います」

「違うとは……?」

「なんというか、疲れやすいというか……、スイゴー王国で聖魔法を使うよりもどっと疲れがたまっている感覚があるといいますか……」



 カロッルは言葉を聞いて不思議な気持ちになる。




 このニガレーダ王国には、聖魔法の使い手がただ一人もいないことはグレッシオからも伝えられている。



 それでも聖魔法を使う力がないカロッルからしてみれば、口で言われたとしてもそのことを実感など出来なかった。聖魔法の使い手が居ないと思い込んでいるだけで、聖魔法の使い手が国内に一人もいないということはあり得ないだろうと思っていた。


 それだけスイゴー王国には、それなりに聖魔法の使い手がいたのである。確かに数は少ないけれども、いないわけではないというのが当然なのだ。



 ただ、こうして実際にニガレーダ王国を回ってみて、この国に聖魔法の使い手や教会というものがほぼ存在しないというのが分かる。


 けれども見ていない場所にそういう存在はいるだろうと思っていた。




 聖女さまの呪い――だという非現実的なことを口にしていたグレッシオ。カロッルは呪いなどというものを信じていなかった。グレッシオが断言していたため、否定は出来なかったが、それでも心の何処かでは信じていないのだ。

 だからこそ、この王国内を旅した後に「いましたよ」と伝えられるように見つけられたら、見つけようとそんな風に考えていたのだ。








「気のせいではなくですか?」

「そうですね」



 気のせいではないかとカロッルは思うものの、ヨッドがそれを否定する。





「このニガレーダ王国にいるからということですか?」

「おそらく……、そうだと思いますが、理由までは分かりません」



 カロッルには信じられないことだが、ニガレーダ王国内ではスイゴー王国よりも聖魔法を使うと疲労がたまるのだという。


 流石にそれが何の理由であるかというのは、疲労を感じている本人も分からないならばカロッルにわかるわけもない。




 ニガレーダ王国というのがそれだけ特殊な国であるというのか、それともたまたまヨッドがそうであるだけなのか。




「よくわかりませんね」

「そうですね。俺もよく分かりません」




 息を整え、一息をついていればヨッドも体調が良くなったらしく、また馬車に揺られることになる。



 その後はヨッドの体調は良くなっていた。これまでの傾向を考えるに聖魔法を使った後があのような状況になるのだろう。

 幾つかの街を移動し、同じ時をヨッドと過ごしているからこそカロッルはそれが分かった。



 その後、馬車での移動が難しいかもしれないと宿をとることになったりもしたのだが――、その時も聖魔法を使った後は馬車で体調を崩していた時と同じように体調を崩しているようだった。






 カロッルは同じく奴隷として買われて、治癒の旅にでている同僚のような立場のヨッドがこのように体調を崩しているのを見ると心配の気持ちを抱いてしまう。




 カロッルはヨッドのために出来ることはなかった。

 ヨッドは聖魔法の影響でこのようになっているというのならば、魔力や魔法というものが影響している。それに影響しているものであれば、下手な薬を飲ませればもっと大変なことになったりもする。


 調合の腕はあるものの、原因が分からないものにたいして何かを行うことはカロッルには出来ないのである。



 ちなみに奴隷という立場だが、カロッルとヨッドの部屋は別々である。個室を与えられているカロッルは、移動の疲れをとるためにベッドに横になり、眠りの世界へと旅立った。








 カロッルとヨッドが眠った後、侍女や護衛としてついてきている者たちは会話を交わす。





「カロッルさんはともかく、ヨッドさんに関しては明確な疲労が見られます。聖魔法を使っていない日はこのように疲労を見せることはない。それを考えるとやはり何か理由があるのではないかと思う」

「それは私も思います。その理由に迫ることが出来れば、聖魔法の謎というのが分かるかもしれません。そして聖女さまのことについても」



 ヨッドとカロッルに付き従い、ニガレーダ王国を回っている騎士や侍女も若者が多い。国中を回るということで、体力のある若者が選出されたためだ。


 そんな彼らはグレッシオ同様に、聖女さまに対する敬意というものが聖女さまがいた頃を知る者たちよりも少なかった。




 彼らはグレッシオより、何か気づいたことがあれば報告するように命令されていた。



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