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「……聖魔法の適性があると、このニガレーダ王国では体調不良に陥る。加えて、聖女さまのかかわりが多い場所だと余計にそれが強いということか」



 グレッシオはそう呟きながら、何とも言えない気持ちになる。

 聖女さまの伝説が残っているベベの街では、聖魔法の適性者が具合が悪くなりやすい。

 ……聖女さまは王家に嫁いだはずなので、王城も聖女さまの影響を多く受けているはずだが、何故ベベの街ほどヨッドたちが体調不良に陥らないのか。




 そのあたりも含めてまだ分からないことが多くある。






「聖女さまの伝説がある場所では、特に聖魔法の使い手が暮らしにくい場所であるというのは正しいでしょう。そしてそれはニガレーダ王国自体に言えるのかもしれません。ベベの街がその傾向が強いからこそ分かりやすかったですけれど、国全体でしょうね」

「それはそうだ。ベベの街のことがなければそんなこと、俺達には分かりようがなかった」



 マドロラの言葉にグレッシオはそう答える。




 ――このニガレーダ王国で、聖魔法の使い手が生まれないというのは分かっていた。

 それでもベベの街のように、この国で聖魔法の使い手が体調不良に陥る何かがあることは把握できていなかったのだ。




 聖女さまは、この国にとってもこの世界にとっても有名で、偉大なる存在である。

 その影響力というのは、とてつもなく強いのだ。



 ――大きな力というのは、良い風にも、悪い風にも大きな影響を周りに与えるものである。





 聖女さまの影響で、聖魔法の使い手が体調不良になりやすいというのもグレッシオたちにとって不可解なものである。

 何故、聖魔法という人を癒すための大いなる力が同じ聖魔法の使い手を体調不良に陥らせるのか。



 そのあたりの疑問は、すぐに原因を解明することは難しいだろう。





「聖魔法の適性が少しあるだけでもベベの街では大人のムムが体調不良に陥るのならば、もっと小さな子供で、聖魔法の適性が強いものはどうだったのでしょうか」

「……もっと前に体調不良に陥って、最悪死んでいるかもな」

「そうですよね……。亡くなっている小さな子供や赤ちゃんの中には、聖魔法の使い手がいたかもしれません。聖魔法の適性があるものがこの国では生まれないのではなく、生まれたけれども大きくなれなかった。――そう考えられます」

「……そうだよな。ムムやヨッドがこの国に居て体調を崩すかもしれない。最悪死ぬかもしれない」




 ベベの街から連れ出したムムと、奴隷として購入したヨッド。

 このニガレーダ王国に折角いる聖魔法の使い手も、此処で過ごすことによって体調を崩してしまう可能性も十分あるということ。



 聖魔法の使い手がいないことで、この国では死亡率が他の国よりも高い。聖魔法という力があれば、この国はもっと栄えることが出来る。

 それを願って、聖魔法の使い手を集めようとしているのに聖魔法の使い手はこの国では死んでしまうかもしれない……。



 その事実にグレッシオは頭を抱えたくなる。



 この特異な国であるニガレーダ王国の王太子として、この国を長らえさせるためにもどうにかしようと行動している。しかし、中々それは上手く行かない。




「ただ、グレッシオ様の行動のおかげでこの国に聖魔法の使い手がいれば体調不良に陥ってしまう可能性があることが分かりました。それは我が国にとっては大きな一歩です。聖魔法の使い手をこの国に連れてこなければその事実は分からなかったでしょう」

「それもそうだな。知っているのと知らないのとでは、その後の行動に多いな影響を与えるものだしな。しかし聖女さまの影響がある場所だと死にやすいなら、聖女さまの影響力が少ない場所を国内で探した方がいいかもしれないな」

「影響力が少ない場所ならばヨッドたちが具合が悪くならないのならば、そこにいてもらった方がいいですからね」



 このニガレーダ王国にいると、聖魔法の使い手が具合が悪くなってしまう――という事実はグレッシオたちにとって頭が痛くなる問題である。

 それでもその聖女さまの影響力が高い場所で体調が悪くなるというのが分かっただけでも大きな一歩である。



 何故、この国では聖魔法の使い手が生まれないのか。

 ――その事実の解明を勧められたら、このニガレーダ王国で聖魔法の使い手が生まれた場合に、なんとか救い出すことが出来るかもしれない。





「……いっそのこと、子供を産む場所の指定をするか? 聖女さまの影響が少ない場所で子供を産むようにするとか。……いや、でもそれは難しいか。幾ら俺が王太子だとしてもそれを強要するのはアレだな」



 幾ら王太子であるとはいえ、子供を産む場所を指定することは難しい。



「そうですね。まずは聖女さまの影響のある場所で何故そういう現象が起こるかを調べて、その原因を省いていくことが重要かと」

「そうだな。ちょっとそのあたりの実験はヨッドに協力してもらうか」




 ――グレッシオとマドロラは、そんな会話を交わすのだった。



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