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面白いことと聞いて、マドロラはグレッシオの方を見る。グレッシオはそんなマドロラの視線を感じて、紙を見せる。
「小さな社ですか……」
「ああ。滝に隠れるように存在していた場所に小さな社があったんだとさ」
「まぁ、それは何か曰くでもありそうですね」
「そうだな。結構古いものみたいで、聖女さまにかかわりがあるかは分からないけどな。ただもし聖女さまにかかわりがなかったとしても、昔このあたりが何を信仰しているかも謎だからな。その辺を改めて調べるのもいいかもしれない」
サーレイ教はこの地に深く根付いていた。聖女さまがこの地にいた事で、サーレイ教は深くこの国に多大な影響を与えた。聖女さまという存在は麻薬のように、この国の人々を魅了し、既存の信仰からサーレイ教へと鞍替えするものが多かったという。
サーレイ教の影響で過去の信仰というのはあまり記録にも残っていない。その小さな社が昔のものだったらそれはそれで良いとグレッシオは思っている。
「俺もその社も見てみたいものだな……」
「私も気になります。その社には何が待っているのでしょうね。そういう不思議に満ちているものというのは楽しいですよね。自然豊かな、摩訶不思議な場所だと遥か昔に姿を消したという精霊たちがいるとも言われてますからね。精霊のことも見てみたいものです」
この世界には精霊と呼ばれる不思議な存在が存在しているとされている。ただそれらの不思議な生物というのは、目撃情報というのが年々減少している。遥か昔には、人々と共存して姿を多く見せていたと言われている。
ただし、今はもう精霊というのは存在を信じていないものも多くいるほどに人々の生活の間近にはいない存在になってしまっている。
こんな時代に生きているグレッシオやマドロラももちろん精霊という存在のことを見たことがない。
とはいえ、精霊の存在が見られないとはいえ、その存在が本当に存在しないとは思っていない。
世の中には、精霊の存在が見られないからこそそんな存在はいないと断言するようなものもいる。
そういう精霊は自然豊かで、昔の信仰と縁のある場所に現れることが多いらしい。ニガレーダ王国でそういう精霊の姿を見かけたという話は久しく聞いていないが、もし見れるなら見たいと望んでしまう。
「仕事が落ち着いたら自分の足でそういう不思議な場所を見て回りたいものだな。もし精霊を見ることが出来て、精霊に力を貸してもらえるようになれれば――、それだけでもこの国の活路にはなるだろうな」
「そうですね。グレッシオ様が精霊とそういう絆を結べたら面白いですね。……でもなんだかグレッシオ様が精霊とそういう絆を結ぶって、想像すると似合わないですね」
「そうだな。俺も、そういうのは似合わない気がする。どちらかと言えば、マドロラの方が似合いそうじゃないか?」
グレッシオは本人も含めて精霊とそういう絆を結ぶというのは、似合わないと思っているようだ。
逆にマドロラは愛らしい見た目をしているので、そちらの方が精霊と仲よくするのは似合うことだろう。
「そうですねぇ。もしそういう事が出来るのならば、精霊を見て、仲良くなれたら嬉しいですけど……私は魔力があっても、魔法の才能はほぼありませんからね。身体強化以外使えませんから……」
「魔力量だけは多いよな」
「そうですね。魔力量だけはありますね。でも簡単なもの以外私は使えませんから。精霊というのは、魔法が得意な方の前に出ているのではないですか。昔話の中では」
「そうだな。昔の精霊に纏わる話では、魔法の才能があるものの前に精霊が現れていることが多いな。でも精霊にもきっと色んな種類がいるだろう。例えばマドロラのことを気に入るような精霊も世の中にはいるかもしれないだろ」
「それだったら嬉しいですけどねぇ。そういえば、あれですよね。聖女さまは聖魔法の才能はすさまじいものだったけれど、精霊に関する逸話は何もありませんよね。聖女さまと呼ばれるほどの人だと、そういう逸話がありそうなものなんですけどね」
聖女さまという存在ならば、精霊と関係があるのではないかと想像しそうだが、聖女さまの精霊に纏わる逸話というのは全くない。聖女さまが実際に、精霊を見れたのか、見たことがあったのかというのも、今では分からないことだ。
ただ精霊とかかわりを持ちたいと望んでいるものも、聖女さまが精霊と縁を結んでいないというのを知ると、諦めるものが多い。聖女さまほどの存在が精霊と縁を結ぶことが出来なかったのだからこそ、並の人ではそんなことはできないだろう――と。
言ってしまえば、聖女さまが精霊との絆を結ぶことがなかったというのもあり、精霊の話題はニガレーダ王国から日に日に消えていっている。
「そうだな。聖女さまは聖魔法に関しては完璧だったが、精霊に関してはそういう逸話ゼロだったな。聖魔法ただ一つだけで、なりあがったのが言ってしまえば聖女さまだからな」
聖女さまは、聖魔法一つで、平民から王家に嫁ぐまで成り上がった存在である。言ってしまえばシンデレラストーリーの一つであると言えるだろう。
二人はそんな会話を交わしながら、仕事を続けていくのだった。
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