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「まぁ、スイゴー王国がこちらと敵対をする気がないのならばまだいいだろう。流石にスイゴー王国まで敵対までしたらこの国が益々つむ。あの王女様も、王族だというのに驚くほど強かったしな」
「グレッシオ様もその点は人の事言えませんよね? 王太子だというのに鍛えているじゃないですか」
グレッシオ・ニガレーダ、リージッタ・スイゴー。
その二人は王族でありながら戦う術を持ち合わせている。グレッシオは元々武名で名を馳せた父親に憧れてその技を磨いたわけだが、流石にリージッタが何故あそこまで強さを磨いたのかはグレッシオたちには分からない。
この世界には魔法があるため、女性でも武名を響かせることをそれなりにある。とはいえ、王族の女性で護衛もつけずにあれだけ自由気ままに動いている女性というのは珍しい。
「あの王女様なら、きっと俺が生きていればそのうちまた関わることになるだろうな」
「縁起が悪いことを言わないでください。グレッシオ様が死ぬことを私たちは許しません。もしグレッシオ様の身に危険が迫るようでしたら私は全力で守ります」
グレッシオの言葉にマドロラは淡々とそう告げる。
マドロラの表情は変わらないが、言っていることはグレッシオの身を案じている言葉である。グレッシオはその言葉に笑い、「俺も危険な目に遭わないようにしないとな」といって笑うのだった。
そんなこんな話ながら、グレッシオは次の書類に目を通す。
その書類は、急ぎの書類というわけではない。ただグレッシオが調べさせている案件についての情報である。
そこに書かれているのは、王宮に仕える数名に指示して集めさせている聖女さまに対する情報である。人材が足りないこの国では、聖女さまのことを調べるという項目に数名割くだけでも骨が折れたものであるが、それでもやはり聖女さまのことをもう一度きちんと調べなおす必要があると考えた。
表面上の聖女さまのゆかりのものはほとんど隣国に持っていかれてしまっているが、数十年も聖女さまはこの地に根を下ろしていたので、どこかに聖女さまの情報があるはずなのである。
その分かりにくいけれど実は聖女さまとかかわりが深いもの――それをきちんと探して、調べるためには聖女さまに関する知識をきちんともったものが調べる必要があった。
「やっぱり俺も聖女さまの情報を探しに行きたいよな」
「駄目ですよ。グレッシオ様も分かっているでしょう? この前、王太子であるグレッシオ様がスイゴー王国に向かうという無理をして、仕事が停滞しているのですから」
「ああ。分かってるさ。こういう時、俺が二人いればいいのにと思うな」
グレッシオとしてみれば、国内の聖女さまの情報を探しに行くのは自分でも行いたいというのが正直な感想である。
グレッシオは大人たちより聖女さまに対する敬意はないものの、この国のために聖女さまのことを調べようとしていて、聖女さまに関する知識というのは多く頭に留めている。
なのでグレッシオが探しに行くことで、聖女さまに関する何かしらの遺物が見つかるのではないかという期待もある。
グレッシオは王太子でありながら自分で視察に向かったりなど、比較的自由に過ごしている。
とはいえ、ついこの前、グレッシオは他国へと向かっていた。その間の仕事というのは、片づけられるものは文官が片づけてくれたものの、グレッシオのサインが必要な物も残っている。
こうして仕事があり、自由に動けない時にグレッシオは自分で同じ存在がもう一人いればいいのにとさえ思える。
「またそんなことを言って……かの魔法大国は、自分と全く同じゴーレムを作成し、それによって滅びたと聞きますよ。グレッシオ様がもう一人いたところで、そういう結末を迎えるだけではないですか?」
昔、この世界に存在していた魔法大国。現在よりも魔法の技術が数段上で、あらゆることを可能にし、不可能などないと言われていた魔法大国である。
そんな魔法大国は数百年前に滅んでいる。何故その魔法大国が滅んだのかは最近の研究で、判明された。
魔法大国では、ゴーレムを作成する技術も優れていた。そして自分と外見も中身も同じゴーレムを作成するという行為も行われていた。どうやって中身まで人と同じに寄せたのかは、現在では分かっていない。
ただそういうゴーレムを作って、作業の効率化を行ったらしい。しかし人と同じだけの思考能力を持っているゴーレムというのは、ただただ人に従ってくれるようなそんなものでもなかった。
それらのゴーレムは人に反旗を翻し、その結果、大規模な内戦がおこり――それがきっかけで永遠に続くかと思われた魔法大国は滅んだと言われている。
その逸話を知っているマドロラは、どちらにせよ、グレッシオが二人いたところで魔法大国と同じ結末を迎えるのではないかと思っていた。
そしてそもそもそんな風に自分と同じ思考回路を持つゴーレムを作る技術は現在ではないので、無理な話なのだが。
「はいはい。……お、マドロラ、報告書に少し面白そうなことが書かれているぞ」
グレッシオはマドロラの言葉を聞き流して、報告書の一点に目をとどめ、そう口にした。
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