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ルグリード領の中をグレッシオ、マドロラ、そして護衛として付いてきている二名ほどの騎士は移動している。
騎士たちもお忍びと言う事も踏まえて、騎士としての恰好ではなく、ただの旅人のような恰好をしている。それはまぁ、グレッシオも同様に言えることであるが。
ルグリード領を横断して、スイゴー王国へと向かおうとしていたのだが、グレッシオたちはルグリード領の中心部でとある一人の男に接触される。
「グレッシオ殿下、ルグリード様がお呼びです」
グレッシオはルグリード領に入ったことなど、一切伝えていないというのに、ルグリードはグレッシオがいることに気づいたらしい。
そういう情報収集能力の高さも彼女がルグリード領を長年統治出来ている理由の一つだろう。
領主であるルグリードからの使いが接触してきたというのならば、お誘いだろう。このまま無視してこの領地を横断したらややこしいことになってしまう。
というわけで、グレッシオはその使いの男に誘われるまま、ついていく。
たどり着いたのは、とある飲食店である。こちらは個室の部屋のある飲食店で、ルグリード領内でも人気の飲食店だ。
このお店で一番有名なのは、小麦粉を使ったピザである。グレッシオたちは、個室へと通される。
個室にはもうすでに一人の女性がいた。
「久しぶりだね。グレ坊」
そう言って不敵な笑みを浮かべるその人こそ、この領地を治めている女領主であるルグリードである。
赤みがかった茶色の髪と、瞳を持つその女性は、不敵で、何処までも自信満々な笑みを浮かべている。いや、彼女は事実自信にあふれているというべきか。
この崩壊しかかったニガレーダ王国で、領主として二十年もこの地を統治し続けた――その経験から基づく自信が彼女の中にはある。
そんな彼女は、グレッシオの事を生まれた時から知っているため、王太子であるグレッシオに対しても軽口を聞く。グレッシオからしてみれば血は繋がっていないが、親戚の女性のような立ち位置の女性である。
「久しぶり。ルグリードさん」
「これから何処に向かうんだい? どこかに行こうとしているんだろう?」
「北のスイゴー王国へ向かおうと思っているんだ。ちょっとやりたいことがあってね」
「そうなのかい。まぁ、やりたいことはやれる時にやるべきだからね」
ルグリードという女性は、やると決めたことをやりとげる意志が強く、行動力のある女性だ。
昔からグレッシオもルグリードと過ごす時間の中で、様々なものを学んだものである。
グレッシオはルグリードに今回のお忍びでの北のスイゴー王国へと向かう理由を言わない。
ルグリードもそれを追求することもしない。
「グレ坊、北のスイゴー王国へ行くのなら気を付けるんだよ。北の国も色んな変化がおこっているからね。まだこちらにまでは飛び火はしないだろうけれど、あちらも一筋縄ではいかないよ」
「それは把握しているよ。何も起こらない国というのはないからな。スイゴー王国も色々起こっているのは知っている。でも今のタイミングだからこそ行く価値があると思うんだ」
「それもそうだねぇ。西の隣国もいつまで大人しくしてくれているかもわからないから準備も必要だね。ルグリード領でも戦力の育成には力を入れているよ。王都の方はどう?」
「王都の方も少しずつ力はつけてこれているとは思うけど、でも色々足りないかな」
グレッシオとルグリードはそんな会話を交わす。
会話を交わしながらルグリードが頼んでくれていた食事を食べる。それはグレッシオの分だけではなく、マドロラたちの分もあった。
通常の国であれば、王族と同じ席で食事を食べるなんてありえないだろうが、マドロラたちは同じ席で食事を取っている。それだけこの国は王族と民の距離が近い。
とはいえ、流石にルグリードとグレッシオの会話に彼らが加わることはないが。
「王の様子はどうだい?」
「まだ体調を少し崩しているよ」
「あのカシオ王が体調を崩すなんてねぇ……。無理がたたったんだろうね。体調が回復することを祈っておくよ。王都にも体に良いものをこちらからも送っておくよ」
「ありがとう。助かるよ。ルグリードさん」
カシオ・ニガレーダとルグリードの仲は二十年にも及ぶ。彼らの間にはグレッシオの知らない深い絆が結ばれているのだ。
もちろん、王への食事であるから毒見などは王城で行われるが、グレッシオはこの目の前のルグリードが心からカシオを思って体に良い食べ物を送ってくれることを知っている。
それだけルグリードは、カシオやグレッシオからの信頼が厚い女性であるのだ。
それからしばらく、他愛もない話を続けて、食事を終える。
「じゃあ、またグレ坊。無事にこちらに帰ってくるんだよ」
「もちろん、ルグリードさん」
そんな会話を最後に、グレッシオたちはその飲食店を後にする。
ルグリードもグレッシオたちが去ったしばらく後に、ひっそりと領主館へと戻るのであった。
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