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「治癒師欲しいよな。でも治癒師は全然集まらないからな」
「そうですね。わざわざこの国に治癒師としてこようなんて思わないですよね」
「……だな。父上も治癒師をなんとかこの国でとどまらせようと政策を進めていたが、あれだよなぁ……、聖女さまの子孫がこの国からいなくなったのが問題だよな」
「そうですね。……先代王家、聖女さまの血族の方々はさっさとこの国を捨てましたもんね」
「……この国家を捨てたとはいえ、聖女さまは偉大だからなぁ。聖女さまの血族がまだこの国を治めていたのならば、治癒師もサーレイ教から派遣もされたかもしれないけど……、一緒に連れてっちまったからなぁ」
グレッシオ・ニガレーダに流れる血は、元々この国を治めていた王家の血筋の方筋ではない。
というのも元々この国を治めていた血族――要するに聖女さまの血を迎えた王家が治めていた。しかしだ、聖女さまの血族――先代王家は……、聖女さまが没して、この国がどんどん寂れて行った中で、国を捨てて行った。
なんだそれ、と思えるような話かもしれないが、先代王家、聖女さまの血を引く王家はこの国が分が悪いと実感すると、この国から去っていった。
なんともまぁ、思い切りが良いというべきか、先代王家は聖女さまの血を継いでいるのもあり、受け入れ先は幾らでもあった。国内のサーレイ教の信者は、聖女さまと共にという信念をもとに先代王家たちと共に教会ごと隣国へと亡命してしまったのである……。
その結果、残された国民は当時混乱していたのだという。
まだ十六歳のグレッシオが生まれる前の話なので、当時の様子をグレッシオが正しく知ることは出来ない。それでも想像するだけでも当時は阿鼻叫喚だっただろうと想像出来る。
サーレイ教という大陸でもっとも影響のある宗教が、この国から聖女さまの血族と共に居なくなった。
そして聖女さまの血を引く先代王家を擁した隣国は……、力を失ったニガレーダ王国の領土を切り取っていった。
そんなわけで強国であったニガレーダ王国は、王家を失い、国民を失い、教会を失い、土地を失い――と失ったものばかりである。
先代王家を受け入れたというのもあって「正しい王家に正しい土地を返すだけだ」という建前をもとに、隣国は侵略を行った。それをサーレイ教も指示したため、世論は隣国の侵略をよしとしてしまった。
……ニガレーダ王国は滅亡に陥るだろうと思われたが、隣国が他国と戦争をし、こちらを侵略する暇がなくなったため何とか落ち着いた日々が続いている。
さて、先代王家が隣国へと亡命してしまったあと王家を継いだのが、元々ニガレーダ王国で公爵家の一つを担っていたグレッシオの父親であった。ニガレーダという性を名乗り、この地を治めることになった。
先代王家が隣国へと亡命したことで、多くの貴族が同じように亡命してしまった。しかしニガレーダ王国が出来る前からこの土地に住まい、この土地で生きてきたグレッシオの父親は、この混乱する国をまとめ上げることにしたのだ。
混乱に陥った国をなんとか国としてまとめ上げるため、そして隣国からの侵略への対応――それらの対応での無理がたたって、グレッシオの父親は最近体調を崩している。
そういうこともあり、現在はグレッシオが若くしてこの国の事を対応をしている。
「……何とか、簡単な怪我や病気ならどうにもなるが、もっと重いものだと治癒師ないとどうにもならないもんな」
「ですよね。そもそも殿下も、大怪我したらどうしようもないですよ」
「ああ。王家が雇える治癒師もいないからな、うちの国……」
「その分、自己防衛能力や自分で自分を治癒するための技術は持ってますけどね」
「それも父上と俺で怪我や病気になった時の対処法に関するお触れを出せたからだけど、死者は相変わらずいるだろ」
「そうですねぇ……。殿下と陛下が文字を読めない国民に絵付きで自分でどういう対処が出来るかというお触れを出したおかげで我が国の死亡率は減っておりますね。でも聖女さまがいた頃には程遠い。治癒師がいるのといないのとでは雲泥の差がありますし」
現在、この国では王家を見る治癒師さえもいない。小国であるとはいえ、通常ならそんなことはあり得ない。——それだけニガレーダ王国は窮地に陥っているといえるだろう。
そんな中で出来ることはあるのだろうか。
そんな中で死者を減らすことが出来るのだろうか。
それを試行錯誤した結果、王と王太子が行きついたのが、王家の書庫に眠っていた知識である。その知識をこの国に残ってくれた民に広めることで、治癒師がいなくても死者を減らせるのではないかと思い至った。
国内を巡り、知恵を広めていった。その結果、なんとか死者率は減少している。
とはいえ、治癒師がいなくていいというわけでは決してない。
「よし……」
会話を交わしながら、グレッシオは書類とにらみ合いっこしていた。
それがひと段落して、グレッシオは椅子から立ち上がる。
「おでかけですか。グレッシオ様」
「ああ」
グレッシオは椅子から立ち上がると、部屋を出ていくのであった。
その後ろをマドロラが付き従う。
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