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王都の街並みは、賑わいというものはあまりない。
時折、見かけられるお店も品ぞろえというのは多くない。このニガレーダ王国は、他国との交易はほぼないと言える。
西の隣国とは敵対関係であり、東の国との境には巨大な山脈が存在しておりそこに国交はない。北にある国とはかろうじて国交はあるものの、それも細々としたものである。
北の国とは、そもそも元々から国交はそこまで活発ではなかった。元々街道の整備はされていたのだが、それもこの二十年整備がされておらずもう廃れてしまっている。
というわけで、ほぼ他国との国交が今は出来ない状況であるニガレーダ王国は、国内で自給自足をしている。幸いと言っていいのか、カシオ・ニガレーダの治めていた公爵領は農業や漁業が盛んだった。
カシオの治めていたニガレーダ王国の中でも南部に位置していた土地でとられた食材は大いに役に立った。ちなみにこのニガレーダ王国に残ることになった民たちの多くが農業などに従事していた農民が多かったというのもあり、なんとか食べていけることは出来ている。
人口が減少したというのもあり、食材は問題はない。ただ余った食材などを売る先がない。北の国には少ししかおろせないのでそのあたりも問題だろう。
元々ニガレーダ王国は、聖女さまのいる国として価値を示していた。先代王家がそのことに胡坐をかいていたというのも悪かったのかもしれない。
聖女さま頼りで、聖女さまがいるというメリットを享受し続けた。
それ以外の価値が気づけばニガレーダ王国からは失われていたと言えるかもしれない。聖女さまがこの国に存在していた数十年の間に、聖女さまがいる当たり前にこの国は慣れ過ぎていたのだ。
その結果、特に他国に売り出せるものというのが、この国には存在しない。
海に面しているという立地的優位さはあるが、正直言って海軍などを整備するお金などこの国にはなく、船の整備もそこまで出来ないため漁に出ることも難しい。
浅瀬の魚ばかりが最近は獲られている。
「やっぱ何か産業いるよなぁ。目立った奴」
「そうですね。でも正直、我が国は生きていくだけで精一杯ですからね。食材もかろうじてとれているとはいえ、有り余るほどというわけでもないですし。この二十年でなんとか持ち直していますが、いつ隣国がこちらをつぶす余裕が出てくるかもわかりませんし」
「そうだよなぁ……。産業ねぇ……。何か名物になるようなものでもあればいいが。それも隣国の脅威をどうにかしないと意味をなさないな」
ボソボソと街並みを見ながらグレッシオはマドロラとそんな会話を交わしていく。
今はまだ、隣国が他の国との戦争を始めた影響でこの国は平穏に過ごせている。だけれども隣国はニガレーダ王国を滅ぼすことを諦めているわけではない。
ニガレーダ王国には目立った産業などはないとはいえ、聖女さまが存在していた土地である。その土地を隣国が欲するのも当然と言えば当然である。
ニガレーダ王国の先代王家が亡命という形ではなく、国ごと隣国に引き渡していればまた別の形の未来が今のニガレーダ王国に待っていただろうが……、先代王家はその道を選ばなかった。その結果、今のこの王国がある。
この数年、隣国は他国との戦争に大忙しで、ニガレーダ王国に構っている暇はない。
ニガレーダ王国は、この隙をついて奪われた土地を奪い返そうと思えば奪い返せるかもしれない。しかしだ、例え出来たとしてもそれをやったところでその場をおさめるだけの力は今のニガレーダ王国にはない。ただ、隣国からの報復が待っているだけである。
「グレッシオ様、見て!! これ、商人が持ってきてくれた種を育てたんだ。結構良い感じに育ったよ!!」
王都に住む一人の子供がグレッシオに向かって、無邪気に話しかける。
それはこの国にも商品を運んでくれる貴重な商人が持ってきてくれた種から出来上がった果実らしい。今までこの土地では育てていなかった果実をこうして、育て上げられるという事実は嬉しいことである。
その喜びをグレッシオは王都の民と共有するのだ。
この数年の平穏の中で、民は穏やかに過ごせている。戦争という脅威が鳴りを潜めているというのは、それだけこの国にとっては吉報であるのだ。
いつまでその平穏が続いていくかは、定かでない。だからこそ、王都ではこの戦争が一時停止している間に、防衛にも力を入れている。
もし仮に王都が攻められた時に、どのように対応が出来るか。どんな風に動くべきか。それは騎士たちだけではなく、王都の民たちも真剣に考えていることである。
国民の数が少ないこの国では、騎士という職業ではなくても民も戦争の数に含まれる。それは既にカシスが国民たちに伝えていることであり、国民たちも受け入れていることである。
守られているだけの選択をするだけの余裕は、今のニガレーダ王国には存在しないのだ。
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