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ニガレーダ王国では、普段は戦闘を生業にしていないものも、戦う術を学んでいる。
日常の中に、体を鍛えるための術を練りこんでいる。仕事の合間合間で、体を動かし、武器の扱い方を学ぶことになっているのだ。
人が少ないからこそ、使える人材はただの一人も無駄にするわけにはいかないのである。
カシオ王がおさめている王都は特に、その傾向が強い。カシオ自身が武人だったからというのもあるだろうが、王自身が戦い方を教えていたりもしていたものだ。
今はカシオは体調を崩しているため、そういうことは出来ないが、少し前までそういう光景が見られたものである。
グレッシオはそんな父親の背中を見て、憧れたものである。
さて、グレッシオは王都内を見て回った後、マドロラを連れて王城へと戻っていった。
「今日も王都は変わりなかったな」
「そうですね。殿下。死人が出ていたのは残念でしたが、皆、変わりがないようで良かったです」
「そうだな……」
「やはり聖魔法の使い手をどこかから連れてこなければならないと思われます」
「そうだよなぁ……」
致命傷を負ったとしても、聖魔法の使い手がいれば最悪どうにでもなる。
聖女さまなんて死んでさえいなければ回復させることが可能だったのだという。まさに神業というべきか、そういう部分があるため、サーレイ教の中でも特別視されていた存在なのだ。
死してなお、その影響力は留まる事を知らない。だからこそ、先代王家は国を捨てて亡命した存在でありながらも、聖女さまの血筋であるからと擁護されているのだ。
治癒師がこの国に――その中でも聖魔法の使い手がこの国にいれば……、と何度も思う。治癒師の中でも聖魔法の使い手は特別なのだ。
この世界、魔法を使える存在も数が少ない。その中でも聖魔法の使い手と言えばもっと数が少なく、重要視されるものだ。
魔法を使えるものはそもそも王侯貴族が多い。貴族のほとんどが亡命してしまったこの国では魔法の使い手というものがそれはもう少ない。
そもそも元々グレッシオの家系は、魔法よりも武力に優れていた家なので、今は王家とはいえ、魔法はそこまで使えるわけではない。こういう時、王家になったグレッシオの家から聖魔法の使い手が現れれば良かったのだろうが……、そんな都合が良い展開は待っていないのである。
「となると……買うか」
「前々から言っていた聖魔法を使える奴隷を購入する計画ですか」
「ああ。それ以外にちゃんと仕事をする治癒師を……それも聖魔法の使い手をこの国における方法はない。そのために俺も稼いだお金をためていたわけだし……まぁ、買うなんてしなくても聖魔法を使えるものがこの国に居ついてくれたらよかったんだが……。そもそも隣国から狙われている今、この国に来るものもいないしな」
聖女さまがいた頃は、聖女さま目当てにやってくるものは多くいた。
聖女さまに纏わる催しもあったし、聖女さまはそれだけサーレイ教と密接につながりがあったため、サーレイ教の信徒は多くこの地を訪れていたものである。
この国は確かに過去には大国と呼ばれていた。聖女さまがいて、その血筋が治める強国として知られ、大いに人でにぎわっていた。
それがもうすっかり先代王家やサーレイ教の信徒が去って、誰も訪れない土地と化している。
あと単純に隣国が狙っている地であるというのもあって、この土地は危険である。いつ、戦争の火種が燃え上がるかわからない。——そんな危険な土地にわざわざ訪れようとするものはいない。
そんな土地に聖魔法の使い手をおくためにも、どうしたらいいかと考えて――、グレッシオは奴隷を購入しようと考えた。とはいえ、聖魔法の使い手は基本的に奴隷には陥らない。
聖魔法の使い手であるというだけで、そのものには価値があり――、奴隷にまで落ちることはほぼない。あとは聖魔法の使い手を奴隷にしているというだけでも非難されることもある。
場所によっては非難の対象であるため、聖魔法の使い手は奴隷としては正規の手段では出回っていない。それもまぁ、法外な額でやり取りされることだろう。
グレッシオが聖魔法を使える奴隷を手に入れたら隣国はより一層ニガレーダ王国を非難するだろう。とはいえ、聖魔法を使える治癒師はどうしてもこの国のためにも必要だった。
その法外な額をなんとかコツコツ溜めてきた。自分で狩った魔物を売ったりしたお金が主である。王太子なのに何で危険な真似をしているのか、と思われるかもしれないが、なんせ人手が足りないのでグレッシオも近場で魔物がいれば狩ったりしているのであった。
「まぁ、聖魔法を使える奴隷が手に入らなかったとしても、国民としてこの国のためになりそうな奴隷は手に入れたいところだよな」
「それもそうですね。世の中にはいろんな能力を持つ人がいますからね。国民に出来れば良いことです。この国にはまだまだ人が足りませんから」
この国はあらゆる問題を抱えているが、やはり大きな問題の一つは、人が足りないことだろうか。
そのため王太子であるグレッシオは、奴隷として国力になりそうな者を購入しようと考えているのであった。
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