.11
グレッシオたちは、ウキヤの街へと向かっている。
グレッシオたちは、整備があまりされていない道を馬車で移動している。ガタンゴトンと音がなり、時折落ちている石により、馬車も大きく揺れる。
乗り心地が良いとは決して言えないが、グレッシオは馬車に乗せてもらえただけでもよかったと思っている。
さて、グレッシオたちは馬車で揺られていた。
そのままウキヤの街へたどり着くかと思われたが、そんなことはなかった。
御者の横に座り、外の見張りをしていたジョエロワが声をあげた。
「魔物ですね」
商人が慌てた様子で馬車を止める。
対して、ジョエロワは特に焦りは見られない。
このあたりは国境付近ということで、そこまで人通りはない。とはいえ、スイゴー王国の道は田舎でもそれなりに整備されていて、魔物が寄ってこないようにという処理は最低限されている。
処理がされているとはいえ、魔物が寄ってこないというわけでは決してない。
そのためこうしてたまに魔物が出てくるということはある。
「ま、魔物だ。どうしよう」
「大丈夫です。俺が倒します」
グレッシオが外を覗くと、ジョエロワが魔物に向かっていっていた。
その魔物は、犬のような姿をした四足歩行の魔物である。素早いスピードでジョエロワに向かってくる魔物。その体毛は黒い。
商人が目を見開いている間に、ジョエロワは既に動いていた。腰に下げていた長剣を引き抜き、魔物を叩き切る。
豪快な動きで、ジョエロワは魔物を倒したのである。
一振りで魔物を倒したジョエロワに、商人たちは驚いた表情を浮かべている。これだけ簡単に魔物命を奪えるような存在を見かけたことはなかったのかもしれない。
パチパチパチと、拍手をする音が聞こえてきてグレッシオはそちらを見る。そこでは旅人が盛大に拍手をしていた。
「いやぁ、すごいねぇ」
そんな風に声をあげて、旅人は楽しそうな声をあげている。
ジョエロワは旅人にそのように言われても、特に何も思っていないようである。ジョエロワは真っ直ぐにグレッシオの元へと来る。
「グレ、この魔物はどうする?」
「そうだなぁ。商人さん、この魔物いるか?」
グレッシオは、魔物に視線を向けてそう告げる。商人はその言葉に驚いた様子を見せる。
「よろしいのですか?」
「ああ。もちろん、ただでは難しいが、それなりに安くはしよう」
商人の言葉にグレッシオはそう告げる。
魔物というものは、体のすべての部位が売れると言われているものが多い。それだけ武器や道具などにつかえるものが多いのである。特にジョエロワの倒した魔物は、破損部位が少ない。
破損がおおければ、高く売られることはないが、これだけ破損が少なければ売れば大きな財産にはなるだろう。
グレッシオが自分で魔物を売ろうとしないのは、一重にこれだけの魔物を他国のものが売買をすればそれだけで目立ってしまうからである。
これだけの美しい切り口で魔物を討伐出来るものは早々いない。だからジョエロワのような存在は酷く目立つのである。
お忍びとして他国に来ているグレッシオたちは、正直言って目立ちたくない。下手に特に国交もないニガレーダ王国の王太子が侵入しているとバレるわけにもいかないのである。
友好関係ではないとはいえ、それなりの関係を築いている――そんな国の関係に下手したら亀裂が生まれるかもしれない。
そもそも、グレッシオの聖魔法を使える奴隷を手に入れようという行為でさえも知られたら非難されてもおかしくないものである……。だからこそ、グレッシオたちは自分たちが王太子一行だと悟られないように動きたいと思っている。
スイゴー王国の王の性格によっては問題がないかもしれないが、それでも悟られない方が良いに決まっている。
グレッシオたちは聖魔法の使い手をなんとかして手に入れようとはしているが、それ以外では目立った行動を起こさないのが一番の目標である。
グレッシオたち一味は目立つ方の人間かもしれないが、それでも目立たないように心がけたいと思っている。
ニガレーダ王国は、隣国だけではなく、スイゴー王国まで敵対するだけの余裕はない。
商人はグレッシオたちの素性を深く詮索することもない。それなりに色んな場所に出向いている商人は、下手に情報を知りすぎてしまうと危険な目に遭うこともあるのだ。
それなりに経験を積んだことがある商人は、下手に人の事を詮索などしないのだ。この商人はそれを考えれば、商人としての経験が大きいのだろうと言える。
そのまま商人とマドロラの間で、交渉は進められ、売買は終わった。
グレッシオたちは奴隷を購入するためのお金が少なからず手に入り、商人は高く売れる魔物が手に入り、双方ともほくほく顔である。
ちなみに魔物の解体もジョエロワが手伝った。
それからしばらく馬車に揺られて、彼らはウキヤの街に辿り着くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます