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 裏通りにいた神官、名をポギャというその男性神官の後ろをグレッシオたちはついていく。


 キャリーは何処か不安そうな顔をしている。裏通りで大人たちに使われていたとはいえ、キャリーは奴隷商が奴隷を売っている場所に顔を出したことはなかった。

 これから何処に連れて行かれるのだろうという不安が大きいのだろう。マドロラの後ろに隠れたまま、キャリーは不安そうな表情を浮かべている。



 マドロラはそんなキャリーを安心させるいように頭を撫でる。それに対してキャリーは笑みを溢した。

 先日出会ったばかりで、実際に血の繋がりなどないにも関わらず、二人はすっかり姉妹のようになっていた。




 神官に連れられて向かったのは、裏通りをもっと奥に向かった場所だ。行き止まりへとたどり着く。




「行き止まりのようだが……」

「まぁ、待ってください。ここをですね……」



 行き止まりにたどり着いた頃に訝し気な表情を浮かべたクシミールに、まぁまぁとでもいうように告げて、ポギャはその行き止まりをコンコンとノックする。



 そして指を何度か動かしたかと思えば、その壁が動いた。



 どうやら隠し扉になっていたらしい。





「非公式の奴隷商というのは実りが大きくてもリスクも大きいですからね」

 



 そう言いながらポギャは前を歩く。グレッシオたちはそれについていく。中は蝋燭の明りはあるものの、暗い。その道をポギャの歩くがままについていく。込み入った道を歩き続けて、しばらく――ようやく拓けた場所にたどり着いた。








「これはポギャ様、どうなさいました」



 そしてその拓けた場所に辿り着いたと同時にその場にいた者がポギャへと話しかける。



 ポギャは何度もここを訪れている常連客か、共犯者のような存在なのだろう。



 その場には沢山の人がいた。窓一つないその部屋は、ウキヤの街のどのあたりにある建物なのかというのもさっぱり分からない。

 窓のない部屋に商人だろう男と、檻に入れられた奴隷たちの姿が映る。非正規の奴隷商に捕らえられている彼らの表情は暗い。それも当然と言えば当然であると言える。



 とはいえ、非正規な奴隷商が扱っているにしては奴隷の状態が良い方であるとグレッシオは思った。グレッシオは王太子であるので、そこまで奴隷商について詳しいわけではないが、父親に聞いた非正規の奴隷商というのは扱いがもっとひどいものが多いと聞いていたのだ。



 ちなみに現ニガレーダ王国の王であるカシオは、若いころに大陸中を冒険していたような存在だった。元々公爵家の出とはいえ、嫡男ではなかったので自由に生きていたのだ。

 しかし兄が亡くなり、公爵位を継ぐことになった。それでいて聖女さまが亡くなって王になることになったという色々と他にはない経歴を持つ王である。



 そうしてカシオは様々な場所を訪れ、様々なものを見てきた。その中で非正規な奴隷商というのも見てきていたのである。



「客ですよ。珍しいものをお求めということでしてね」

「そうなのですか」



 ポギャと話していた男は、見るからに商人と言った様子の男である。優し気な雰囲気を醸し出しているが、この非正規の奴隷を売買していることからも、見た目通りの男では決してないだろう。



「私はロドーレアと申します」



 にこやかに微笑むロドーレアは、グレッシオたちを射抜くように見た。



 いかに高く奴隷を売りつけてやろうか――などといった事を考えているのかもしれない。



 こういう場所で少しでも付け込まれる隙を与えるわけにはいかない。グレッシオはそれを心得ている。




「俺はグレだ。後ろは俺の付き添いだな」

「そうですか。その少女もですか? グレ様がその少女を売るというのならば、少しは安くしますが」

「ひっ……」



 マドロラの後ろにいたキャリーを目に着け、ロドーレアはそのようなことを言う。

 視線を向けられ、キャリーは怯えたような表情を浮かべた。そしてまさか、売らないよね? とでもいうように恐る恐るグレッシオやマドロラを見ている。



 


「この少女は売り物ではない。道案内を頼んでいたんだ」

「そうですか、それは残念です。その少女もこれから仕込めば高く売れる売り物になるでしょうに」



 ロドーレアは残念そうにそう告げる。

 そしてすぐに話を切り替えるように、グレッシオたちを見る。



 気づけば、ポギャは別の部屋に移動していた。道案内という仕事を終えたポギャは役目を終えたといわんばかりに気づけば消えていたのであった。





「それより商売の話をしないか。俺は欲しいものがある。そのために此処まできたんだ。それがあるかどうかを知りたい」

「かしこまりました。どのような奴隷をお求めですか?」




 ロドーレアは手をもみながらそう問いかける。



 そんなロドーレアに対し、グレッシオは自分の望みを口にした。






「聖魔法が使える奴隷というのはいるか? 聖魔法じゃなくても治癒師として活躍できるような存在がいればと思ってな」




 その言葉にロドーレアは流石に驚いた様子を見せるのであった。


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