第26話 このボタンは、現在使用できます。

 で、今に至るというわけだ。

 全身毛むくじゃらの魔族にとって、男湯も女湯もないんだろう。人間を真似して温泉を作ったのか、入り口だけは男女別にしてあったけども、魔族の世界では混浴が基本らしい。っていうか、これ、俺悪くないよな。とばっちりだよな。エレンの裸は見た。それはもう、ばっちりと。だけど、気絶させられる理由はない。おっぱいに釘付けになったけど、不可抗力だ。

 もちろん、混浴だと先に聞かされていたら、入らなかったかと聞かれたらもちろん違うと答えるさ。むしろ、温泉に率先して入ろうと口にしただろう。

 だが、しかし。

 おれ、悪くないよな。

 しかも、置き去りって。

 手足縛って置き去りって。

 さっきまで、様子見しようって言ってたのどこの誰だよ。

 それが、置き去りって。

 うん。いろいろ、助けれてるけどむかついて来た。

 くそっ、先に混浴って気付いていれば、お湯の中とかに潜んでもっとガン見してやったって言うのに。あの猪もしかしてカップルか?良く考えれば、脱衣所の服は一つだった。ってことは、もう一人は女子か?って分かるか!!猪の性別なんか分かるかよ!!

 くそっ、一瞬とか勿体無い。もっと、見てれば良かった。気絶したせいで折角の裸なのに記憶から飛んでやがる!!

 ん?

 いや?

 いやいやいや?

 ある。

 あるよ。

 おれ、天才じゃない?

 くだらないMHKのニュースを中断して、リモコンを操作して録画リストを押してみる。昨日、この世界に召喚されたとき、リモコン上のボタンは全て試していた。そのほとんどは『このボタンは、現在使用できません』と返された。だが、俺の目の前にはリストが表示される。

 昨日の魔王との戦いからの1時間ごとに区切られた録画リストが表示される。そう、全部のボタンを押したときに、当然のことだが録画ボタンも押していたのだ。だが、録画の結果を試していなかった。


 一番最新の録画データにカーソルを合わせて、決定ボタンを押すとスクリーン上にこの宿に入ってきたところからの動画が流れてくる。どうやら、俺の視線がカメラの役割を果たしているらしい。

 こんな場面を見ていても仕方がないので、早速早送り。昔のビデオデッキのように画面をちらつかせて、世界が流れていく。そして、風呂に入ったところまで場面を進めて、いざ背後を振り返ったところで画面を停止させた。


 女神がそこに立っていた。

 初めの印象が悪すぎて、しかし兜をとった姿が見たことも無いほどの美人だったけど、彼女は服を脱いでこそ真価を発揮する。

 美しいという言葉さえ霞む。

 胸の形。

 肌の色。

 腰のくびれ。

 お尻のライン。

 すべてのバランスが完璧な調和をもたらせている。

 洋物はほとんど手を出したことなかったけど、これはアリだな。アリアリだな。

 さて、どうしようか。せっかくの裸だ。まずはこの手足を縛るロープをどうにかして…。


「ここか?」

「ああ、そう聞いてる」


 部屋の外からものすごく不穏な声が聞こえてきた。

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