第30話 迫り来る死と煩悩と。

 あ、これはもう無理だ。

 さっきの落下ですら、魔法が発動出来た時には再起動から1メートル以上落下していた。

 だめだ。

 間に合わない。

 もっと早く。

 もっともっと早く魔法を発動できないと間に合わない。

 爪が顔に食い込むのにコンマ1秒も掛からないだろう。

 無理だ。

 イメージは停止している世界の中でも構築できる。

 だけど、マナを放出しなければ魔法は発動しない。

 どうしても、そこにタイムラグが生じる。

 無理だ。

 死ぬ。

 これ、確実に死ぬ。

 よし、うん。

 死ぬ前にもう一度エレンの裸でも鑑賞しよう。

 リモコンを操作して、録画リストからエレンの入浴シーンを選択する。再生と早送り、一時停止で彼女の裸でモニターを固定する。

 やっぱり、美人だ。おっぱいもすげえ。見れば見るほどすげえ興奮する。語彙が少なすぎて悲しいがすごい。はあ、一発抜きてぇ。この裸なら連続三回はいけるな。

 ッていうか悲しいな。

 死ぬ寸前でも、一人エッチしか考えられないのか俺は!!

 どうせならヤッテから死にたい。

 こんな極上の女が目の前にいて、何も出来ずに死ぬとか嫌だ。

 しかも、今夜は同じ室内で寝る予定だぞ。

 っていうか、童貞で死ぬとか無理。

 30まで童貞で魔法使えるとかいうけど、俺すでに使えるし。30まで独り身でいる必要ないな。っていうかやりたい。やりたい。やりたい。やりたい。だめだ。煩悩が溢れる。死にたくない。いろんな意味で死にたくない。


 でも、これ無理だろう?

 たっぷりとエレンの裸を堪能してから画面を一度閉じて、再び眼前に迫る凶爪を確認する。

 一瞬で魔法を発動する。

 スロー再生を併用すれば、タイムラグは多少抑えれるかもしれない。でも、これ、王手だ。チェックメイトだ。いくらなんでも近すぎる。マナを放出するのにどうしても時間がかかる。


 いや、そうなのか?

 マナは体内を巡っている。

 だったら外に出さなくても魔法は発動できるんじゃないのか?

 異世界ものでよくある身体強化。

 この世界にあるかは分からない。

 エレンはいった。魔法はイメージを形にすることだと。

 命を賭けるなんて分が悪すぎる。

 でも、ほかに手があるかといえばない。

 このまま、エレンの裸を見ながら魂が擦り切れるまで無限の時を生きるわけにはいかない。

 死にたくはない。

 俺は生きたい。

 エレンとやりたい。


 だったらやるしかない。

 一か八か。

 いや、もっと分が悪い。

 だが、やる!


 よし!

 もう一度エレンの裸をチェックしておこう。

 最期かもしれんからな!!



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