第10話 天気予報の新たな使い方
彼女が落ち着くまでと、木の幹に背中を預けて座っているといつの間にか眠っていたらしい。よくよく考えてみると、この世界に迷い込んだのは夜中の3時過ぎだった。こちらの世界では太陽はさんさんと輝いていたけども、一種の時差ぼけのような感覚である。
目が覚めると、そこには絶世の美女が立っていた。
柔らかな印象のある青い大きな瞳、日の光を受けてキラキラと輝く金色の髪の毛。モデルのように顔は小さく、背はすらりと高い。それでいて出るところはしっかりと存在をアピールしていた。欧米人の年は分かりにくいが、自分とそんなに変わらないだろうとリュウは思う。
さっきまで一緒だったエレンという名の勇者はどこに行ったのだろうか?
「起きたのか?まったく、敵地でよく寝れるものだ」
呆れたような声にはどこか聞き覚えたがあった。
「っていうか、エレンか?」
「誰だと思ったんだ」
「あ、いや、なんていうか…」
(鎧はどこに行ったのだろうか?ストレージの指輪に収納したということか?)
「鎧は着てなくて良いのか?敵地なんだろ?」
「問題ない。その気になれば、すぐに装着できる。それに…」
「それに?」
「ここの連中に害意はない」
「ん?」
(俺の眠っている間に、誰かと接触したのか?魔王城からそれほど離れていないんだ。接触したのなら、魔王サイドの連中だろう。それでも、害意はないと?この女なら話もせずに切りかかりそうだけどな。まあいいか)
「よし、それじゃあ、人の居るところまで連れて行ってくれ」
「遠いぞ?」
「ん。まあ、そうだよな。魔王の住まう城の近くに村があるとは思えん。どのくらい掛かる?1日、1週間、一ヶ月?」
「わからん」
「ん。どういうことだ?」
「貴様は知らないだろうが、ここはリビア大陸といい、私の国はアルバイン大陸にある。海を渡らなければならのだ」
「船は?」
「貴様は魔王のいる大陸と船での行き来があると思うのか?」
「ちょっと待て」
俺はリモコンを操作して、dメニューを開いた。先ほど、天気予報を見ていた分である。相変わらず魔王城周辺の天気が表示されているが、よくよく見れば地図を拡大する/縮小するという項目が見える。
「何をしているんだ」
いきなりリモコンを操作して、虚空を見つめ始めたリュウを不思議そうにエレンが覗き込む。説明が面倒なので、停止ボタンを押して、時間を止める。その上で、地図を縮小した。すると、魔王城以外の都市が見えてくる。ここ、リビア大陸には幾つかの街や村があるらしい。
(だが、どういうことだ?アルバイン大陸と船の行き来がないというのなら、それは魔王に属する連中というか、魔族の村ということか?)
さらに地図を縮小すると、世界地図のようなものが映し出された。リビア大陸の東にアルバイン大陸があった。大陸の大きさとしては、アルバインの方がおおよそ3倍くらいのサイズがある。それ以外にも、大小三つの大陸があったが、やはり一番近いのアルバイン大陸らしい。拡大縮小こそ出来ても、縮尺がないため実際の距離は分からない。
「ふむ。距離は分からんが、東の方にサルーナという町があるみたいだ。途中にニヘムって街もあるらしいから、そこに向かおう」
「それは魔族が街を作っているということか?そんな馬鹿な!連中にそんなことが出来るとでも、いや、そもそも、なぜわかる?お前はリビア大陸にきたことがあるのか」
「ないよ。でも、分かる」
「何だ。それは」
「うるせぇ。黙って付いてこい」
エレンを無視して歩き始めると、リュウの後を追うようについてくる。
(っていうか、付いてきて貰わないと困るんだけどな。温厚な魔族だけとは限らないし)
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