第11話 水道水 < ミネラルウォーター <<< 魔法の水
二人は魔王城を背中に抱えて、東の方に進んでいく。先ほど休んでいた場所はまばらな木々の立つ林のような場所。そこから、少し進んだところで、二人がギリギリ並んで歩けるくらいの街道と呼ぶには心もとない道が続いていた。街へと続いているかは不明だけども、どこかに通じていることは確からしい。
「なあ、喉が渇いたんだけど、水とか持ってない?」
魔王との一戦を経て、喉が空っからだった。緊張とかもあるのだろう。良く考えると、多少小腹も空いている気がする。この世界に呼ばれる前にポテチは食べていたけども、極限状態でカロリーが大量に消費されたのだ。
「水?そんなもの魔法で出せば良いでしょ?」
「ああ、そうだな。魔法で出せば…って出せるか!!喉が乾いたら、魔法の蛇口を捻るのか?どんな世界だよ」
「蛇口?なんだそれ?君は水魔法も使えないのか?本当に何も…いや、そうだね、ちょっと待って」
エレンが指輪に祈りを捧げると、空中にジョッキが出現する。そして、何事か呪文を唱えると、空中に水球が生まれ、ジョッキに向かって自然落下する。バシャンと音を立てて、水が並々入ったジョッキが現れる。リュウは受け取ったジョッキの中を確認すると、透明な液体がゆれている。意を決して口をつける。
「うま!え、いや、なにこれ。水ってこんなに美味しいの?いやいや、山の湧き水とかミネラルウォーターとか比じゃないじゃん。純粋な水?ってこと、雑実が全くない。喉越しがいいし、すごいまろやか。ああ、つまり、魔法の水ってことか。ああ、やばい、とまらねぇ」
ビールで言うと大ジョッキくらいの大きさの小さなたる型のジョッキだったが、一気に飲み干してしまった。驚きのあまり、よく分からない食レポならぬ水レポをするリュウを怪訝な目でエレンが見つめる。
「何を言っているんだ。君は?」
「いやいや、ごめん。そんなことより、食べ物はある。ちょっと小腹が空いているんだけど」
「一応はあるが…すぐに食べたいのか?」
「なんだ?何か問題でも」
「いや、食事はきちんと座って食べるのがマナーだが、そうだな。パンくらいならいいだろう」
そういって、指輪に念じると、空中にパンが飛び出してくる。見た目はフランスパンそのままである。落下する前に、リュウはキャッチすると、仄かに温かい事に気がついた。
(なんだこれ、ちょーふわふわじゃねぇか。指輪倉庫に時間経過はなしってことか。つまり、出来立てのパンをそのままの状態でずっと収納が出来ると、さすが異世界。よし、とりあえず食べてみよう)
「そして、うまっ!! まわりはカリッとしているけど、中はふわふわで仄かに甘みがある。ミルクか?乳製品の甘さだな。くそ、めちゃくちゃ美味いじゃないか。噛めば噛むほど甘さが口に広がりやがる!やばい、止まらない。パン食べてたら普通、喉が渇くところだけど、しっとりしているせいか、全然口が渇かない。バターもジャムも何もいらない。むしろつける行為がこのパンへの冒涜のような気がしてくるわ。なにこれ、美味すぎ。近所にあったら毎日通うわ」
「何を言ってるか分からんが、店はアルバイン大陸だから、通うのは無理だぞ?」
「ですよねー」
60cmくらいはあったフランスパンが気付けば半分は胃袋に収まっていた。ちょっと、小腹を満たすつもりが激しく食いすぎた。お腹がパンパンに膨らんでいる。その様子をエレンがあきれ返ってみていた。
「悪いけど、これ指輪に戻してもらっていい。後で食うわ」
「え?」
「なに?食べかけは無理とか?」
「そんなことは…わかったよ」
嫌々そうにエレンがフランスパンに指輪を向けると、虚空へと消えていく。
(なんだよ。なんか、やりづらいな。いいたいことあるならはっきり言えっての。鎧脱ぐ前は散々突っかかってきたのに、まあ、いまの姿にはその塩らしい振る舞いの方がしっくり来るけど、違和感が過ぎる。そりゃあ、魔王との力の差とか、仲間の死が堪えるってのはわかるけどな…。っていうか、腹が痛くなってきたな。食いすぎたか)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます