第12話 レベルアップに必要なのは向上心ですって。

 小腹を満たしたところで、二人は細い道をひたすら歩く。エレンは二人の進む道に危険がないか、周囲を警戒しているようだ。ほんの少しリュウより先を歩き、視線だけで安全を確認する。


 森の中から聞こえてくるのは、木々のざわめきに小動物の鳴き声だけ。時々、ライオンのような獣の唸り声が聞こえてきて驚くが、エレンに言わせると気にする必要は無いらしい。彼女が黙っているため、リュウも何も言わずに付いて行く。


 魔物の襲われないかと不安はあるものの、そこはエレンを信用するとして無言に堪えられなかったリュウはテレビのリモコンを操作して情報集めをすることにした。天気予報に新たな使い方が見つかったように、もしかしたら他にも何かあるかもしれないと思ったからだ。


 電源ボタンを押すことで、目の前にリュウにしか見ることのできないフレームが空中に表示される。そこから先は、魔王との戦いの中で確認したものと基本的に同じだ。押せるボタンを確認していくが、そのほとんどは『このボタンは現在使用できません』の言葉と共に何も起きない。


(ただし、『現在』ってところが気になるといえば、気になるか?何らかの条件を満たせば有効になる可能性もあるということだな)


 一通り確認してみるが、目新しい発見は特にない。正確に言うならば、ないわけではなかった。言い訳師の固有スキルである口八丁のレベルが2に上がっていることくらいだが、それによる能力値補正で魔力が+2に上昇していたことくらいだ。


(それが、どうしたってレベルだな。俺のレベルやステータスがゴミみたいなことは疑うまでもないが、参考までにエレンのレベルを確認しておくか?)


「聞いてもいいか?」

「…どうした?」


 エレンはわざわざ振り返ってリュウに目線を合わせてくる。


「そんなにかしこまらなくてもいいんだけど?っていうか、照れるわ」

「君は何を言っているんだ?」

「…ああ、いや、なんでもない。それで、エレンのレベルやステータスを聞いてもいいか?」

「レベルは72よ。ステータスは大体6000前後って所かしら」

「…まじか。ちなみに成人男性の平均ってのは分かる?」

「職業次第だけど、平民でレベルは10前後って所かしら。ステータスは100には満たないわね」


(随分と差があるな。俺のレベルが6というのも少し低い程度ってことか。ステータスに関しては低過ぎる嫌いがあるけど。それにしても、レベル10でステータス100だとしたら、上昇の仕方に偏りがあるのか?エレンのステータスは伸びすぎだろう。或いは勇者補正というところか?)


「ちなみに、どうすればレベルは上がる?」

「どういう意味だ?君の世界と一緒じゃないのか?」


 エレンが不思議そうに小首をかしげる。それに対して、リュウは首を左右に振って否定する。


「そもそも、レベルなんて概念がない。ステータスに関しても同じく」

「なんと。それはまた変わった世界なのだな」

「どっちがだよ。まあ、それは良いとして、それでどうなんだ?」

「そうだな。簡単に言えば、経験を積むこと」

「経験?」

「何も特別なことではない。生きていればそれなりに経験は積めるだろう。だから、年齢を重ねていくだけでも、多少はレベルは上昇していく。我々のような戦いに身を置いて得られる経験もあるが、訓練を繰り返すことでも経験を積むことはできる」

「それで、平民でもレベル10前後ということか。レベルが上がると、ステータスも上昇するんだろう。ある日突然レベルが上がって、ステータスが数ポイントあがるわけだろ。それはどういう仕組みなんだ」

「なるほどレベルがないという君の世界には向上神もいないわけか」

「向上心?」

「いや、向上神だ。上のレベルに向かわせる神だ。夢の中で向上神より与えられる課題をクリアすれば、レベルが上昇するんだが、ちょっと待て」


 突然真剣な眼差しで前方を睨みつけると背中の剣を抜いた。突然変わった雰囲気に、向上神への突込みを忘れてエレンから距離を取る。彼女の視線の先に魔物が現れた。

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