第25話 温泉
「とりあえず、外に行くのはやめておこうか?色々と手に入れたいものもあるけど、少し様子を見た方が良いかもしれないわね」
「そうだな。服はともかくまともな靴は欲しいけど…、余計なトラブルは避けたいしな」
「そうね。この先も歩くことを考えたら、靴はどうにかしたほうがいいかもね。まあ、それはさておき、温泉にいきましょう!」
急に目をキラキラと輝かせて「温泉」と口笛を吹き始める。まあ、わざわざキャンプのドームハウス内にまでバスタブを用意するくらいだ。風呂好きというのは想像に難くない。だが、
「っていうか、温泉はいいのか?ここは敵地だぞ?そんな無防備をさらして」
「問題ないわ。指輪に武器は入れておけばすぐに取り出せる。とにかく行こう。森を抜けてきたからね、汗流したいでしょ」
「おれはそうでもないんだが…」
なんだったら、風呂なんて一週間に一度くらいで十分だという人間だ。
「なら、ここで待ってる?温泉まで君の悲鳴が聞こえれば良いんだけど」
「いやいやいや、そこは助けてくれ。分かった。俺も温泉いくって」
俺達の部屋は二階の角部屋で、温泉は一度一階に降りてから真っ直ぐ廊下を突き進んだ先にあった。途中、他の宿泊客とすれ違った。白い鼬のような魔族で、外で見かけたようなコートではなく着物のようなものを着ていた。はだけた浴衣、あるいはバスローブを羽織っているような感じで、布を一枚当てているという程度で、服の意味をあまりなしてはいない。二足歩行であるという以外は、いままで見た魔族は獣と変わりはない。全身を体毛が覆っているので、暖をとるという意味での服ではないのだろう。人の真似事なのかもしれない。
突き当たりの温泉入り口で男女に分かれていたので、男のほうの暖簾を潜る。想像通りの脱衣所がそこにあり、俺は着ている服を脱いで籠に放り込んだ。先客一人がいるらしい。先ほどの鼬の魔族が着ていたような浴衣のような服が脱籠に収まっていた。
扉を開けて中に入ると、湯煙の向こうに立派な牙を持つ猪頭の魔族が二人、湯船にゆったりとつかっているのが見えた。狸の女将さんや、狐の両替商もそうだが、顔は獣なのに表情豊かなのが不思議だ。温泉が骨身にしみているのが良く分かる。幸福に浸る顔をしている。
この世界のルールは分からないが、体を洗う場所があったのでお湯に入る前にまずはそこでかけ湯をする。エレンから貰った石鹸とタオルで体を洗っていると、背後でガラガラガラと戸の開く音が聞こえてきたので背後を振り返る。もはや魔族を動物の着ぐるみをきた人間くらいにしか思えなくなってきたけども、だからといって警戒心がゼロには成らない。
「な、な、な、な、なーーー」
背後を振り返った俺の目に飛び込んできたのは女神だった。
片手じゃ収まらないほど豊満な果実が二つに、腰の曲線の美しさ。芸術品のような肢体に思わず目が釘付けになる。楽しいときは時間が駆け足で進むというが、至福の時はほんの一瞬。
俺の存在に気がついたエレンがどこからともなく取り出した桶を投擲していた。
カンッと小気味いい音を立てて、額を強打した俺の意識はそのまま暗転する。
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