第24話 古の竜と魔族と人族と
前書き
24話目ですが、文体を変更します。
主人公の心の声を括弧書きにせず、一人称で進めようかと思います。
以下、本編。
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手足を縛られて畳みの上に転がされている。足首と後ろに回された手首が麻紐のロープによって固定されて身動きはまるで取れない。動くことができないので諦めて何もない空間を見つめる。というか、何もないわけじゃない。俺にとっては、MHKのつまらないニュースが流れているのが見えているわけだが。
っていうか、つまらねぇ。テレビを見るくらいしかないけど、はぁあ、MHKしか見れないのが悔やまれる。もう、エレンはどこいったんだよ?魔族の村で放置とか勘弁してくれって!!
何でこんなことになっているかというと時間を少し遡る。
狸の女将さんに部屋に案内された後、今後の方針を二人で話し合っているところに両替商の男が部屋まで来てくれた。狐の魔族でうっかり騙されるんじゃないかと警戒していたけども、特に問題はなかった。人族と魔族の金貨では金の含有率が違うらしく、およそ二倍の価値があるといって、魔族の町で使える金貨への両替とそこから小銭に値する銀貨や銅貨へと換金してくれた。
エレンがどれくらいのお金を持っているかは不明だけど、宿代から魔族の世界の相場を計算して一月程度なら十分なお金に換金しても余裕があると言っていたのでそれを信じることにする。
「毎度おおきに」
そういって、狐の魔族が去っていくと、今度は入れ替わるように狸の女将さんが戻ってきた。
「そうそう一つ言い忘れていたんだけどね。雨は大分弱くなってきたからね、村の中を歩き回っても良いけど、年寄り連中には気をつけなよ。お爺やお婆の中には昔の戦争の記憶があるものも多いからねぇ。いくら陛下が手出しするなといっても個人の感情までは、どうしてもね。分かるだろ?」
「は、はあ」
これ、フラグか?勘弁してくれよ。
狐の両替商が来るまでに聞いたこの世界の歴史。それによると、いまから遥か遥か昔、このリビア大陸にも人族が暮らしていたらしい。しかし、邪悪なるドラゴンが生まれ、世界を荒らしまわった。町や村は焼き払われ、当時の人口の半数近くが死滅したという。当時の勇者達の手により、ドラゴンはリビア大陸の南方に追い詰められたという。しかし、殺すことは敵わなかった。そこで考えられたのが次元魔法により異界へと閉じ込めることだった。ドラゴンはこの世界に干渉することはできなくなったが、ドラゴンの邪悪な力の欠片が、異界からこの世界に洩れ出てきたそうだ。それにより、リビア大陸は変容したという。
リビア大陸で暮らす人族が、ドラゴンの邪気に当てられ次第に正気を失い互いを喰らい合ったのだ。人々はリビア大陸をすて、アルバイン大陸に移り住むことになった。しかし、ドラゴンの封印が確かなものであることを確認するために、残された人々は定期的に足を運んでいた。
そして、ドラゴンの封印から数十年の後、人型の二足歩行をする魔物が発見された。魔物でありながら、人族と同じように言葉を操り知性のある魔物を人は魔族と呼んだ。
人族は彼らを恐れた。
知性があり、魔物と同じように身体能力が高い。
言葉を操るからと対話するという発想は人族には生まれなかった。ドラゴンの邪気により人族は狂い、魔物は進化して知性を得た。彼らの力の根源は邪悪なドラゴンに由来すると考える人族が、魔族を存在そのものが悪と考えたのにはそういう理由がある。エレンは魔王だから悪だと言ったが、魔王が人族の村を侵略したとは言わなかったのだ。
ドラゴンの脅威から数十年、以前と同じとはいえないまでも人族は数を増やし復興の兆しは十分に見えていた。魔族の存在が確認されるとすぐに軍が組織されて、リビア大陸に向けて殲滅部隊を送ることとなった。だが、実際に派遣された部隊は魔族を駆逐するには十分な数ではなかった。
ドラゴンの脅威が去った後、人々は人族同士での争いを始めていた。リビア大陸を放棄したことで難民としてアルバイン大陸に渡ってきたものたち。しかし、その中にはリビア大陸で覇権を握る王族の系譜もいた。彼らは独自の支配地域を得ることを求め、既存の国家と争いが起こったのだ。
外への脅威に対して一丸となるべきときに、内輪もめをしていた人族は完全に対応を誤った。世界を荒らしまわったドラゴンと違い翼を持たない魔族がリビア大陸から出てこなかったことも一つの要因といえる。だが、歴史において、あの時こうしていればという話は意味がない。
人族が失態に気がついたときには、リビア大陸は魔族が蔓延る世界へと変貌していた。
人族と魔族の戦いは熾烈を極めたが、この戦いは人族が一方的に魔族のいるリビア大陸に攻め入っていることにあった。魔族は獰猛で残忍、人と同じ言語を操り知性はあるが、群れを成すことはなかった。造船技術などもってのほかであり、アルバイン大陸に魔族が攻めてくることがなかった。
人族と魔族の戦いは数十年前に誕生した魔王により一変した。
魔王の圧倒的王性により、魔族が群れを成し人族と戦うようになったのだ。個の強さでは敵わずとも、人族全体としては魔族をほんの僅かに上回り、少しずつリビア大陸から魔族を駆逐していたところだったのだ。それが、完全にひっくり返った。
焦った人族はリビア大陸の魔族殲滅、および魔王討伐のための大きな戦争を起こした。皮肉にも強大な敵の存在が人族を束ね、各国の協力のもと人族の全勢力をぶつけて行われた第一次人魔大戦は多大な犠牲を払ったものの、リビア大陸に足を踏み入れることすら叶わなかったという。
そして、人は再び力をつけるため、時を置いた。魔王が如何に優れた統率者であろうとも、船を作れない魔族が人族へ侵攻することはないと考えたのだ。リビア大陸への監視の目を向けつつ、人族は軍を組織して力を蓄えた。そして、勇者が生まれ、魔王討伐を皮切りに魔族の駆逐を行うための第二次人魔大戦が行われるはずだった。
ってことらしい。
魔王を倒すために、魔族を生み出すきっかけとなったドラゴンを召喚しようとしていたというのがもはや無茶苦茶だとは思うが、エレンに言わせると一度封印できた以上、再び封印する方法も分かっているそうだ。もし、失敗しても、召喚獣は召喚者の命にひきづられる存在であるため、「いざとなれば私が死ねばいい」とエレンは言い切った。勇者とは斯くあるものだと覚悟を決めているらしいが、死に急ぐ姿勢は気に入らない。それだけは絶対に。
魔王討伐が失敗に終わった時点で、全面戦争が行われることは見送られるはずだ。だが、一番の問題は魔族側の在り様だろう。ただの蛮族と考えられていた魔族が、畑を耕し、家を作り、村という共同体を築き上げ、人と同じような生活をしている。エレンが村に足を踏み入れたときの驚愕っぷりを思えばその衝撃の強さが窺い知れる。
魔王は人族と争うつもりがないと狸の女将さんは言っていた。たぶん、それは間違いないのだろう。そうでなければ魔王が俺達を解放した理由がわからない。でも、だからといって人族は諦める気はない。むしろ、もっと恐れを覚えるはずだ。知恵を持った獣ほど恐ろしいものはいないのだから。
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