第39話 たまには主人公らしく…

 素通りしました。

 見てみぬ振りしました。

 だって、怖かったんだもん。


 相手は子供だけど、魔族と人族のハーフ。一般成人男性以下の能力値しかない俺にどうしろと?

 いや、イジメはよくないと思うよ。でも、無理じゃん。女の子はかわいそうだったけど、人間出来ることと出来ないことがあるわけで。


 散歩の続きの戻った俺がぐるぐる村を巡っていると、高台か見えたのでそちらに上ってみることにした。高台からは集落の全域を見える。俺達が捕まったのが、方角的に言うと集落の北側。そこから大通りが一本走っていて、通り沿いに家が立ち並んでいる。もちろん、小道や裏道もあるようで家はおおむね密集している。一軒だけ極端に離れた家が見えるけども、ほかと比較して小さいので物置か何かかもしれない。家の周囲には畑や田んぼ、家畜の放牧地が広がっている。

 

 町の南の方に高台があり、大きな川が東に向かって流れている。そこから農業用水などを引く水路が作られているのが見えた。

 川はかなり川幅が広く、街道があるわけではないが森に入るために大きな橋がかけられていた。そこにぽつんと立つ人影が見える。

 おそらくイジメられていた少女かもしれない。

 石を投げていた連中はどこかにいったようで、俯いたまま濁流を眺めている。何気なしに彼女の方を見ていると、川に落下した。


 !!?


 おいおいおいおいおい。


 自殺か?いや、自殺だろう。こんな濁流で水遊びなんかするはずはない。

 助けなきゃ!そう思うと同時に時を止める。


 濁流から引き上げる手段を考えるよりも先に、まずは少女の近くまで移動しなくてはならない。直線距離で約50メートル。道を通れば凡そ倍。普通に走れば13~4秒というところか?


 だが、魔族に襲われたときに俺は一つの能力を獲得している。身体強化だ!一回しか使用してないし、どの程度速度が上がるかは分からないけど有効だろう。雨で増水している川の流れがどの程度かは不明だけど、流されている少女に追いつけないほどではない。後は以下に追いつくかだろう。

 

 決断すると同時に体内のマナをコントロールして身体強化を図る。イメージが固まると同時に時を再生させる。


 一気にトップスピードに乗った俺は、高台から駆け下り川沿いの道を疾走する。前回は一瞬だったけども、継続しての身体強化は可能らしい。自分の想像よりも速い速度で景色が流れている。

 自転車で必死に立ち漕ぎしているくらいは出せているんじゃなかろうかと。

 流れいく景色の中、濁流に弄ばれる少女の姿を捉えた。死ぬつもりだった少女にあがくつもりはないのだろう。すでに意識を失っているようで、流されるままになっている。

 追いついたところで、助ける手段を考えるべく時を静止させる。


 ふぅ。


 さっきまで荒い呼吸をしていたのに、当然ながら止まった時の中では息苦しさも感じない。しかし、追いついたのは良いとして、濁流に飲まれている少女を果たしてどうやって助け出せば良いのだろうか。

 少女は川の中央付近を流されていたが、川幅は15メートルといったところ。少女の意識がないということは、ロープを投げるというような手段は取れない。最低でも7.5メートルは近づかなければならない。

 水深はどのくらいだろうか?

 これだけ水の勢いがあれば、膝程度の水深でも人間は身動きが取れないものだ。歩いて進むという選択はまず取れない。

 どうする?

 いっそのこと飛び込むか?身体強化している状態なら泳ぎの性能も上がるかもしれない。或いはエレンが作ったように氷の筏を作成するか?だが、魔力は足りるだろうか?

 ったく、どうすりゃいいんだよ!!


 

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