第15話 料理の上手な女性は好きですか?
さっぱりした。
汚れも取れて、温かい湯につかり体はリフレッシュされる。風呂に入っている間に、汚れていた衣類は彼女の魔法の力できれいに洗浄されるおまけつきである。その瞬間は見ていないが、あらゆる魔法を操れる彼女なら、服の洗濯するくらい大したことではないのだ。
一週間ぶりの風呂に、一週間ぶりくらいにキレイに洗われたジャージに袖を通すと、ここが異世界で魔物のはびこる森の中ということが夢のように思えてくる。
土で作られたイスにつくと、テーブルの上にはすでに湯気を立てた料理が並べられている。食器の類は指輪から出したのか、色とりどりな陶器の食器である。
(いやいや、やりすぎでしょ。これのどこがキャンプメシだ!!)
「上がったのか?風呂上りには水を飲んだほうがいい。料理はちょっと待ってくれ、スープがもう少しで出来上がる」
「あ、ああ、ありがとう」
彼女の差し出すジョッキを手にして、水でごくりと飲み込んだ。数時間前に飲んだのと同じ雑味の無い魔法の水。エレンは外で料理をしているらしいので、イスに座って目の前の料理に目を向けた。
食べかけだったパンはきれいにスライスされて、軽く焼き色がつけてあった。さらに、先ほどの魔物の肉と思わしきものがテーブルの中央でデカデカと存在感をアピールしている。香りから判断して、ただの塩コショウでないことは丸分かりだ。さまざまなハーブを使って、焼き上げている。こんがりとした焼き色に、多彩な色のスパイスが掛かっている。美味しそうなにおいにごくりと唾を飲み込んだ。
「待たせたな」
エレンがミルクパンを片手に部屋に入ってくる。お玉を使って、丁寧にスープ皿にクリーム色をしたシチューらしきものが注がれる。テーブルにはパンに、肉とスープ、さらには柑橘系の果物らしきものが一口大にカットされて並んでいる。シンプルながらも贅沢さを感じさせる料理の数々。彩りは確かに少ないだろう。だが、ここが屋外であることを思えば十分すぎる。
「すまない。魔王の討伐にダイレクトに乗り込んできたからな、あまり食料は入れてなかったんだ。こんなものしかなくて申し訳ない」
小さく頭を下げて、謝罪を口にしてエレンが顔を赤らめる。まるで、こんな料理しか提供できないことが、恥だというように。
「いやいや、十分すぎだって」
「野菜があまりなくてな、サラダでも用意できればよかったんだが…」
「むしろやり過ぎだから!!何なんですか、これ。これが野営で食べるご飯ですか?普通にレストランで出てくるレベルの食事でしょ」
「そ、そんなことはないと思うが…」
(え、そこで照れるの?ちょっと、エレンさん?あなた何物ですか?乙女ですか?可愛すぎるわ!!いかん!待て、冷静になるんだ、俺。彼女は一瞬で馬鹿でかい軍鶏をくびちょんぱするような女ですよ)
「と、とにかく。食べよう。さっきつまみ食いしたとは思えないくらい、これ見てたら腹減ってきたわ。食べて良いか?」
「あ、ああ。食べてくれ」
彼女に促されて、真ん中の肉に手を伸ばす。この状態にあれば、これが元々魔物であったとは思えないから不思議である。テーブルに用意されていたナイフとフォークを使って、手元のお皿に適当な大きさに切り分けると、さらに一口大にしたそれを口へと運ぶ。
ナイフを入れたときから、肉の持つ弾力には気付いていたが、口に入れるとその弾力に圧倒される。噛み切れないような悪いイメージの弾力ではない。ちょうどいい噛み応えは肉を食べている実感を与えてくれる。それに、肉を噛むごとに旨みが口の中に広がっていく。見た目どおり軍鶏らしい筋肉質な肉であるが、しっかりと脂の甘みも感じさせてくれる。それに、エレンの味付けが肉の旨みを格段に上げていた。
スパイスによって味は奥深くなり、噛む度に違う味を堪能させてくれる。異世界の食べ物はどういうわけか、あらゆる意味で刺激が強い。水やパンは素材そのものという気がするが、この肉の旨みはエレンの料理である。エレンの味付けがあってこその味わいである。もちろん、塩だけでも美味しいのだろう。だが、それ以上のものが感じられた。
「やばい。美味っ。エレン、これマジで美味いわ」
「そ、そうか?それは良かった」
ホッとしたように笑みを見せ、エレンも食事を開始する。リュウは、一度パンを口に入れて口内をリフレッシュさせると、続けてスープに手を伸ばす。スープは見た目どおりホワイトシチューのようである。具材は同じく巨大軍鶏であるが、あれほどの短時間で仕上げたとは思えないほど、肉はほろほろで口に入れると同時に解けた。
味付けはこちらはシンプルである。おそらく塩とコショウのみ。ただ、肉がほろほろになるほどに煮込まれているせいか、旨みがスープに広がり一口の飲むごとに旨みが体中に染み渡る。
「スープも美味いし、パンも美味い。エレン。これマジで最高!!」
「そ、そういってもらえると、作った私としてもうれしいよ」
少し頬を赤らめてエレンが答える。
(…可愛いな。おい)
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