第17話 ウォシュレット魔法の習得

 お尻がかゆいです。

 紙がないので、仕方なくそこらの葉っぱで済ませたけど、なにか大切なものを失った気がします。エレンが葉っぱに毒はないといったけど、どうにも被れているような気がしてならない。


 5歳児でも仕えるウォシュレット魔法である。必要とされる魔力は相当に少ない。なんと、リュウの魔力1+2=3でもギリギリ使えるそうだ。そんなわけで魔法を教えてもらおうとしたのだが、悲しいかな便意は待ってくれなかった。


「じゃあ、魔法の基本を説明する。といっても、まずは体内を巡るマナを感じ取らねば成らん。それを補佐する。背中を貸してもらうぞ」


 彼女はイスに座る俺の背後に回ると、掌をそこにそっと添えられる。彼女の体温が仄かに温かい。


「マナは体を流れる血液の流れに似ている。私が強制的に強い力で君の魔道回路に大量のマナを流す。それをまずは感じ取れ」


 口で説明しながら、彼女の掌から背中を通して何か温かいものが流れ込んでくるのを感じる。寒い冬、温かい飲み物を飲んだときに、喉を食道を胃袋を温かいものが通過していくのを感じるように、普段は感じ取れない感覚が、体の中を通る何かを自分のものとして認識することが出来る。


 温かい力が背中の一点を中心に、くもの巣のように同心円状に広がっていく。だが、それは血管と同じく体中を隅々まで満遍なく網羅している。太い線に細い線。血液を送り出すポンプが心臓であるように、マナを送り出す器官が体の中に存在するのを感じる。心臓とは違う場所、へその裏あたりにそれは存在し、マナが体内を巡る。体、腕、足、手、指先。巡る。回る。流れる。


「感じたか」

「…ああ」

「右手を前に出せ」


 言われるがまま右手を前に出すリュウは、力を感じるようにいつの間にか両の目を閉じている。


「体の中に感じるマナを右手から外に出るようにイメージしろ。魔道回路はあるがないものだ。存在していないが、存在している。イメージの力で流れをコントロールできる。今感じている流れをイメージしながら、外へ流れるイメージを同時に創れ」


 右の手から不可視のエネルギーがにじみ出る姿を想像する。細い細い線だ。蛇口が詰まっているように、全開にしたつもりでも細い糸のようにしか流れていかない。それはリュウの魔力の少なさが原因。だが、確かにマナはリュウの体から外に出ている。


「悪くない。そのままイメージしろ。水を。流れ出るマナが、そのまま川を流れる水だとイメージしろ。マナの流れは水の流れに似ている。故に想像しやすい」


 マナが掌から出る姿を蛇口を捻った水道と同じだと考えたリュウにそれは容易なことだった。マナをそのまま水だとイメージする。


「つめたっ!」


 驚いて目を開けると、ジャージが濡れていた。


 そこには何もなかったはずなのに、リュウの掌から水が生み出されたとしか思えない現象の結果だけが残っている。


「お、おおおおお!!!すげぇ!俺いま魔法使った?マジで?俺すごくねぇ。一発で成功とか俺ってば天才!!くっくっく、はっはっはー。来たぜ来たぜ俺の時代。伊達に毎日毎日妄想してたわけじゃねぇ。イメトレはばっちりだっての。俺様の妄想力を思い知ったか!!」


 初めてつかった魔法の力に、言い表せぬ感情が暴れる。


「妄想力が何のことか分からないが、本当にすごいな。初めてでそこまで出来るのは中々のもんだ」

「そうだろ。もっと褒めてくれ。俺は褒められて伸びるタイプだ。よし、じゃあ、続いて風魔法のれ……」


 勢いのついたリュウが、風魔法の練習に乗り出そうとしたところで、急速に意識は遠退きテーブルに突っ伏した。

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