第18話 向上神の課題
夢を見ていた。
夢の中で夢を見ているときがついたのは初めてのことだ。だが、それが夢と分かったのは、360度何もない空間に自分が立っていたから。奥行きすら判断できないような影も光もない真っ白な空間。地面と空の区別すらつかない。どこまでも広がる白。
そこにリュウが立ち、もう一人年齢不詳の男が数メートル離れた宙に浮いていた。ランプの精のようなアラビア風の衣装を身にまとったへんてこな男。伸びたあごひげをいじりながら、ニヤニヤとした笑みを浮かべてリュウを見つめている。
「ほほっ、不思議不思議。君は一体誰なのか?大人に見えるけど、赤ん坊なのかな?どうしてどうして、君は半日程度しか人生経験がないのだろうね。ほほほほほ」
頭のおかしな怪人だが、彼の言葉を聞けば誰なのかリュウには一つ心当たりがあった。
「あー、まさかとは思いますが、向上神ですか」
「ほほっ、その通りその通り。おいらは向上神。経験を元にレベルを上げる神様かな?」
「かな?って、なんで疑問系なんだよ」
「ほほっ、それでそれで。君は何だろうねぇ。まあいいか?それにしてもステータスが低いねぇ。一体どうやって生きてきたのやら」
ぐるんと宙を一周して、リュウに急接近すると顔を下から覗き込む。右目の前でOKサインの指を作って瞬き一つ。
「ほほっ、うんうん。君は歩いたね。君にしては良く歩いたね。そして、よけたね。攻撃をよけたね。さらに魔法も使ったのかい?うんうん。よしよし、レベルを一つ上げようか。課題を一つあげようか?」
ぴょんと一飛びリュウから距離を置いて空中に着地して、あごひげをふにょーんと引っ張る。どこまでもマイペースな向上神にリュウはあっけに取られて、ただぼんやりと成り行きを見ていた。
(これが神か?)
「ほほっ、さてさて、君はどうしたい?体力とすばやさと、魔力のどれを伸ばしたい?」
「選べるのか?」
「ほほっ、確かに確かに、選べるよ。君は本当に不思議だね。レベルが6なのに、おいらと君は初めて出会う。不思議不思議。何だろね?レベルを上げるの初めてかい?なのにレベルはすでに6?不思議不思議。まあいいか?それで、君は何を望む?」
最後の一瞬、いきなりニヤニヤ笑顔から真面目な顔にシフトする。あまりのギャップにリュウは姿勢が真っ直ぐすべきと感じられ、目の前にいるのが本当に神だと理解する。迷うそぶりも見せずにリュウは答える。
「じゃあ、魔力で」
「ほほっ、魔力魔力、それなら君に課題を上げよう。課題はなんだ?課題はそうだ。これにしよう」
ほほほっと笑いながら、再びニヤニヤ笑顔を貼り付けて宙をテクテク歩き出す。向上神の歩く先を見てみると、いつの間にか籠が一つ現れていた。木の蔓で編んだようなアジアンテイストの籠である。向上神に視線を戻すとボールが一つ渡された。
「ほほ、簡単簡単、そのボールを投げて籠に入れてごらん」
「は?」
思わず間抜けな声が漏れる。
「いやいや、レベルアップの課題がこれってありなのか?死ぬほど簡単じゃないか?そんなわけないよな。ああそうか、ものすごく遠いところから投げたら良いのか?それとも、100回連続成功とかそういうことか?」
「ほほ、一回一回。ここからそこに投げてごらん」
「マジで?」
「マジで!」
ほほっという定型句を忘れて向上神が即答する。何しろリュウが立っているところから、籠までの距離は2メートル、籠の直径はおそらく1メートルと、外す方が難しい。
「じゃ、じゃあ、いくぞ」
リュウはちょっとびびりながらも、手の中のボールを籠に向かって放りなげる。キレイな放物線を描いて、ボールは確かに籠の中に吸い込まれていく。籠の底がどうなっているのか、底に着いたはずのボールは跳ねることも音をたてることもない。
「ほほっ、合格合格。これで君はレベル7。魔力を10個、ほかは5個。ほほほっ、これからも経験いっぱい積むといい?何でもかんでも経験経験。経験積んだらまた会おう」
「いや、ちょっと待て。おかしい。おかしいだろ。エレンの話だと、一般人の平均レベル10で、ステータスは100前後と聞いてるぜ。その流れからしたら、1レベルごとに最低10は上がるもんだろ。なんで、平均的に5しか上がらない?」
「ほほっ。君は元が低すぎるんだもん」
「だもんて!!!」
「じゃーねー」
「ちょっと、おい…」
そこで意識が途絶えた。
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