第52話 リモコン一つでどうしろと!

 王都を強引に脱出した俺たちはルミエが従える馬に乗って草原をかけている。背後を振り返ると騎馬兵が十数追いかけているのが見えた。

 つかぬ離れず一定の距離を保ったまま逃走劇は続く。


「済まない」


 謝罪の言葉とともに、勇者が走って追いついてきた。

 なんで、馬に追いつけるんだよ。という突っ込む気力すらわいてこない。


「どういうことだよ」


 不機嫌な気分たっぷりに聞き返すと、申し訳なさそうに目を伏せる。


「魔王と対面したときのことを全部報告したの。だけど、彼らは信じてくれなかった。魔王は悪だという決めつけ――、まあ、それに関しては私も人のことは言えないけど、魔王に人族と争う意思がないといっても聞いてもらえなかった。それどころか、私は魔族に寝返ったと思われている。そのうえ――」

「俺たちも魔族側だと思われていると」

「そういうこと」


 まあ、そうなるかな。魔王討伐に乗り出した勇者一行とは別の人間を連れて戻れば、リビア大陸の生き物だと思うのが普通だ。それはつまり魔族ということ。いくら人と同じ見た目でも、信じるには値しないということだろう。

 召喚された異世界人だといったところで同じなのだろう。


 もっとも、それはある程度は予想の付いたことだった。魔王を悪だと言い切った出会った頃のエレンを思えば、馬鹿な俺でも想像できる。でも、できれば予想が外れることを祈っていた。


「どうする」

「逃げるしかないわ」

「だよな。で、どうする」


 俺は後ろを振り返る。


「馬に無理をしてもらいますか?」


 とルミエがいう。魅了を受けた馬は、実力以上の力を引き出すことも可能だ。だけど、それは諸刃の剣である。限界以上の力を出した馬が無事で済むはずもないから、うまく逃げきれればいいが、引き離すのに失敗すれば足を失うことになる。


「エレン。お前は人類最強なんだろ。どうにかしろよ」

「……無理だ」


 またしても申し訳なさそうに口にする。

 馬に並走できる脚力があって、しかも息切れすらせずにしゃべる余裕のある勇者が何を言っているんだと思う。


「私は勇者だ」

「それは知ってるって」

「前にも言ったと思うが、勇者は魔物や魔族に対してならそうそう後れを取ることはない。だけど、勇者とは人族の英雄なのだ。人を害することはできない」

「冗談だよな」

「残念ながら、本当だ」

「別に殺せとは言わん。無力化することならどうだ?気絶させるだけとか」

「そういう問題ではない。魔物に対して1.5倍のステータス性能を発揮する反面、人族と対すると力は半減する。それに、追いかけてきている連中の中には、レベルだけで言えば私よりも上の者もいる」


 おいおい、なんだよ、その反則的な追跡者は。


「人類最強が聞いてあきれる」

「対魔族という一点においてはな」


 使えねえ。


「二人とも争ってる場合じゃ!!」


 ルミエの警告に後ろを振り返ると、追跡者との距離が詰まってきている。街の厩舎にした馬と、騎馬として鍛えられた馬との性能差ということだろう。


「エレン。いつものチート魔力で壁かなんかで道をふさげないか」

「距離が近すぎる」


 見た感じで追跡者との距離は30メートルくらいだ。馬の脚力をもってすれば1~2秒の距離だろう。

 たしかに、エレンの魔法はすごいけどその時間じゃ無理か。


「俺がやるしかないってことか」

「リュウ?」


 恰好つけたところで、時間を止める。

 いくら強烈な魔法が使えても、イメージを確立するのに時間のかかるエレンと、大した魔力はなくてもほぼ一瞬で魔法を発動できる俺。

 真っ向勝負すればエレンの方がはるかに強い。

 だが、リモコンこそが俺のチート。


 イメージをゆっくりと構築して、再生と同時に魔法を発動する。

 

 騎士たちを覆い隠すほどの大きな砂嵐を発生させる。

 追跡者どもも魔法の発動を感じ取り身構える。だが、消費された魔力の少なさと、ほんの少し舞い上がった土煙を風魔法で吹き飛ばすだけで余裕を見せる騎兵を見て、俺はにやりと口角を上げた。


 次の瞬間、足を取られた馬がいななき、騎士たちが落馬する。

 先頭集団以外は落馬は免れたものの、騎士たちを踏まないようにと急制動を掛ける。わずかにできた停滞の時間で、エレンが巨大な壁を出現させる。

 俺が使った魔法は、土煙を上げたわけじゃない。土中の土を移動させたのだ。つまりは落とし穴を掘ったのだ。それにうまい具合に掛かったというわけだ。


「意外とやるじゃないか」

「うるせえ」

「さすがです」


 褒められたのが照れくさくて、ルミエに指示を飛ばす。


「ルミエ、少しだけでいい。ちょっと距離を稼ぎたい」

「わかりました」


 次の瞬間、ルミエの目がひかり、呼応するように馬が疾く走る。だんだんと小さくなる土壁が突如として崩壊したが、そのころには俺たちの姿は森に入っていた。

 逃げきれたのだろうか。


「で、どうする」

「二人には済まないことをした。陸地が見えた時点で、別行動をするべきだったよ」

「起きたことはしょうがないですよ」

「そういって貰えると助かるよ。とにかく、王都から離れたところで身分を隠して生きていくしかないと思う」

「あてはあるのか」

「私は幼いころから王都で勇者として教育を受けていた。あてといえば、実家しかないけど、このタイミングで田舎には帰れないからな」

「それじゃあ……」

「安心してとはいえないけど、ある程度の蓄えはある。これからのことはゆっくり考えよう」

「そうですね」


 エレンもルミエもよく前向きになれるなと思う。

 人族の大陸に戻れば、あとは楽しい異世界ライフだと思っていたのに、なんで逃亡者スタートだよ。しかも、追跡者が勇者以上のレベルとか完全に無理ゲーじゃないか。

 

 ふざけるな。

 こんな世界、リモコン一つでどうしろと!







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あとがき


拙作にお付き合いくださり、ありがとうございました。



現在、別の作品の連載を始めてます。

よかったら、次の作品もよろしくお願いします。


『勇者として召喚された俺より、偶然巻き込まれた友人が重宝されたので、死んだことにして一からやり直す』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054918408743


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リモコン一つでどうしろと! 朝倉神社 @asakura-jinja

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