第6話 状況を整理しよう
(これ、どう考えても詰みだろ)
絶望が襲う。
心臓がバクバクと早鐘のように叩いているのが分かった。
息が苦しい。
(死にたくない。死ぬのは嫌だ。痛いのも嫌だ)
能力は下の下。
使えそうなボタンは全て確認した。使えるのは再生と停止のみ(正確には再生はまだ試していないが)。停止機能のおかげで、魔王の攻撃すら一時停止している。それだけがアドバンテージだ。どれだけすばやい攻撃でも、停止することさえ出来れば軌道を読んで、再生と同時に避けることも可能かもしれない。
意識を魔王の方に向ける。
魔王の指先はリュウの頭に向かって向けられている。ほんの僅か頭を下げるだけで避けれるだろう。だが、仮に拳銃の弾丸と同じくらいの速度だとして避けれるのだろうか?
(無理!絶対無理!漫画じゃねぇっていうの!くそっ!考えろ!考えろ!考えろ!)
そのとき、ふっと天啓が下りてきた。
(まだ、押してないボタンがあるじゃねぇか!)
見えているボタンは、電源ボタンを除けば全て試している。でも、リモコン下部をスライドすれば、レコーダー用のボタンが存在する。再生、停止、早送り、巻き戻し、録画、etc…。
(再生と停止は決定ボタンと同じだろう。だが、巻き戻しはどう作用する?もしかして時間が戻せるんじゃないか?この状態から回避しても間に合わないが、ほんの僅かでも時間が戻せるなら…!)
左手の親指が自然と巻戻しボタンの上に移動する。
『現在、録画データが存在しません』
(だと思ったよ!)
悪態をつき、もう何十回目になるか分からないリモコンを投げたい衝動に駆られる。
(考えろ!早送りはどうだ?これも録画データ限定なのか?確認は…リスキーだな。攻撃が倍速になったら即死だろ。だが、待てよ。逆にスロー再生ならどうだ?スローなら攻撃も避けれるんじゃないのか?)
指がスロー再生ボタンに移動し、魔王に視線を合わせる。
だが、ボタンの上で指が金縛りあったように動かなかった。
読みが外れたらどうする?という恐怖がリュウを支配する。相手の動きが遅くなったとしても、自分の動きも遅くなれば結果は変わらない。世界が停止すると同時に、自分の肉体的な動きが封じられていることを考えると、結局のところ一緒ではないかと思った。
(一か八かというのなら、電源ボタンでもいいんじゃないか?電源OFF=死ってことはないだろう。元の六畳間に戻ってこれるなら、それで良いじゃないか!異世界に憧れはあった。異世界転生や召喚ものもいっぱい見たけど、さすがにこれは無理だろ。いきなりラスボスって、無理ゲーにもほどがあるわ。よし。帰ろう。これは夢だった。そういうことにしよう。何とか出来るなら俺だって何とかしたいけど、無理じゃん)
決意してしまえば、自然と親指がリモコンの上、赤いボタンへとスライドする。
死。
一瞬、脳裏に浮かぶ一文字。だが、覚悟を決め、ボタンを押し込んだ。
何も起きなかった。
いや、さっきまで開いていたメニュー画面がすべて閉じていた。
(つまり、テレビ画面の開閉か! クソがっ!)
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