第21話 魔法使いを夢見て。
「器用だな。君は」
「まあな。あふれ出る才能におれ自身ビビッてる」
高笑いを上げるリュウを見て、エレンは顔を引きつらせる。
街道沿いを歩きながら、リュウはひたすらに魔法の練習をしていた。
火・水・風・土と基本となる四つの属性の魔法を指鉄砲の先から放っていた。特に的を見定めず、そこらへんの木に向かって。練習のために威力はかなり抑えているけども、それは間違いなく魔法であった。
努力を厭うリュウだが、この世界は分かりやすく成果が見える。昨日のわずかばかりの経験でもレベルが上がったのだ。おそらくこの程度の魔法の練習でもまたレベルが上がるだろうという憶測も成り立つ。
(それに、魔法を使い続けていれば魔法使いって職業も手に入るかもしれないしな。さっさと『言い訳師』は卒業したい。意味はないけど)
「なあ、エレン。この辺の魔物って強いのか?」
「いや、そんなことはないが、」
「俺でも倒せる?」
リュウの疑問にエレンは一瞬考え込んだ。野営地を出てから遭遇した魔物と、魔力13というリュウの実力を比較する。異世界物に憧れのある身としては、魔物退治にも心惹かれるものがある。だが、魔物が現れた次の瞬間には、首ちょんぱされていては活躍する暇がない。
「魔力13では、厳しいかもしれないな。傷をつける程度なら出来ると思うけど?」
「そっか」
「君がやっている練習でも十分な経験だとは思う。それで、もう少しレベルを上げてからでもいいんじゃないか」
「かも知れないけど、試したい」
「そうか、じゃあ、次に手ごろな魔物が現れたら君に任せようか?危なくなりそうだったら、私が対応すればいいだろうから」
「あ、ああ、守ってもらわないと駄目っていうのはアレだが、安全圏で戦えるっていうのは助かる」
(くっくっく、テンション上がってきたぜ。魔物退治。ふふ、いい響きじゃねぇか。やってやるぜ。今日が駄目でも明日がある。通じなくても、魔法連発すれば、今夜にでも向上神と再会できるだろうしな。くっくっく)
魔物との戦いをイメージしながら、歩いていると数度魔物は現れた。だが、それらも一瞬で切り捨てられていく。雑魚とは呼べない魔物で、リュウが対応するには早いらしい。そんなことを繰り返していると、一匹の魔物が現れた。
「いいぞ、あれを任せる」
二人の前方100メートルほど先に、シャーモ(巨大軍鶏)が現れた。シャーモの走る速度からすると5~6秒でリュウに到達する。シャーモがこちらに向かって駆け込んでくるのを目にしながら、リュウは体内のマナをコントロールする。指先を敵に向けて、マナが噴出すイメージをする。それと同時に攻撃するための現象へと創造を膨らませる。
(魔力13が13キロの物質を操れるとして、13キロの土を投げても大したダメージにならないだろう。限界ギリギリの重さだと、動かすのが精々だ。だけど、1キロならどうだ?500グラム、100グラム、或いは小指の先ほどの大きさの土の玉ならより早く飛ばせるんじゃないのか?)
100メートルほどあった彼我の距離はあっという間に詰められる。しかし、イメージを形にするには十分な時間を稼げる。リュウは銃弾を打ち出すイメージで、指の先に土の弾丸を構築して、マナを一気に弾き飛ばすイメージをする。
練習の成果が発揮され、想像通りの弾丸が指先から真っ直ぐに打ち出される。
空を切り裂き、シャーモへと到達する。
リュウへ向かう突進の勢いが一瞬崩れる。黒い体で分かりにくいが、弾丸が命中したのはシャーモの肩口。しかも、巨体に対して小指の先ほどの弾丸では威力は小さい。一瞬の停滞はあっても、シャーモの突進は止まらない。
(くそっ!!ビビッて狙いがずれたか!!なら、もう一発!!)
再びリュウが自身の魔道回路にアクセスしようとした瞬間、横なぎの剣が一閃。シャーモの頭を胴体から切り離す。
「初めてにしては悪くない」
剣を納めてエレンが向き直る。
「くそ、もう一発くらい」
「君の魔法発動は初めてとは思えないほど早いけど、さすがにその時間はなかったよ。練習すればもっと早くイメージを構築できるようになるから、焦らないことだ」
「けど…」
悔しそうに顔を歪めるリュウの脳内で「ピンポーン」と間抜けな音が響く。リモコンを操作して、電源を押すと透明なスクリーンが面前に映し出され、メッセージが現れる。
・新しい職業『ガンマン』を手に入れました。
(魔法使いじゃないんかーい!!)
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