第22話 魔族の村に到着!

 リュウは職業『ガンマン』を選択する。ステータスのすばやさと魔力がプラス3ずつ上がる。さらに、遠くの敵への攻撃の命中率が上昇するといういまひとつ使えるのかどうかが分からないスキルが手に入る。


(なんで魔法を使っているのにガンマン?って突っ込みはさておき、言い訳師よりマシだから良しとしよう)


 シャーモのあとにも魔物は現れたが、それらはリュウで対処するのは難しいらしくエレンに一刀のもとに伏せられていった。朝、野営地を出発して2時間ほど歩いたところで森を抜け、集落が見えてくる。


「村のようだな。しかし、魔族が農業とは…」


 エレンの気配が緊張で高まるのをリュウも感じる。雨に包まれてはっきりとは分からないが、前方には畑が広がり、あぜ道に誰かが立っているのが見えた。近づくにつれて、姿が徐々にハッキリとする。


 リュウ達と同じように、雨よけのフードつきコートを身に纏うドーベルマンのようなシャープな顔立ちのイヌだった。魔王と同じく二足歩行であることに変わりはない。その手には槍が握られ、さながら村を守る見張りのよう。


「エレン。手を出すなよ」

「分かっている。それより、本当にここまま進むのか」

「魔王と話した感じじゃ、人間と敵対する意思は感じなかっただろ。それに、エレンも食料品を手に入れたいって言ってたじゃないか」

「それはそうだが…」


 エレンが口を濁す。魔族の住む村や町があったとしてどうするのか、道中話し合っていた。魔族との接触を回避するべきか、それとも通り抜けるのか。エレンの魔法があれば、寝床は心配する必要がないのでわざわざ敵地である魔族の町で寝泊りする必要はない。ただ、長い遠征を想定していなかったエレンには十分な用意がなかった。もちろん、シャーモのような食用にもなる魔物もいるので飢えをしのぐことは出来る。ただ、どうしても、穀物や野菜は手に入らない。たった、一晩の付き合いでも、リュウは理解している。

 エレンは食にはうるさい。


「なるようになるさ。少なくとも、魔王以外が相手ならエレンに分があるんだろ」

「ああ」


 しゃべっている間に、二人は見張りらしい犬型の魔族の前にたどり着く。どういうべきかと二人が口をつぐんでいると、見張りが先に言葉を発する。声帯の形が違いそうなのに、魔王のしゃがれ声と違って彼の声ににごりはない。


「その珍妙な服装…お前等が、陛下に逆らったという人族か?」

「ああ」

「そうか。村で暴れないなら中に入っても構わない。だが、下手なことを考えるなよ」

「本当に良いのか?」

「もちろん。陛下は人族との争いを望んでおられない。陛下が手を出すなというのなら、我々は何もしない。だが、お前等が何もしなければという前提になるがな」


 にやりと大口を開けて笑う様は魔王の臣下と呼べるほど凶暴な印象をリュウに与える。むしろ、彼個人としては暴れたいという欲求があるようにその笑みからは窺い知れる。下手のことをすればどうなるか分からない。もちろん、リュウにその気はない。だけど、一緒にいるエレンまでそうとは限らないのだから。


「行こう」

「ああ」


 下手な諍いが起こる前にと、リュウは彼女のコートを引っ張り犬人の横をすり抜ける。本当に何もする気はないようだ。竦むような恐ろしい視線が頭の上から突き刺さってくるけども、それ以上なにかされることはなかった。


 畑の間を抜けて集落に入る。ここからが村だというような塀や門はないけども、家が密集しているので、ここが村だと理解できる。


「これが、魔族の村なのか?」


 唖然として立ち尽くすエレンの横に立ち、リュウは村の様子を伺う。エレンの話では、魔族は野蛮な連中というが、外の畑もそうだが目の前の家もしっかりとメンテナンスが施されることが良く分かる。いわゆる異世界らしい中世ヨーロッパとは違い。地面はむき出しで、建物は木造建築ばかり。平屋に二階建ての建物はあるけども、3階以上の建物はなかった。それでも、門番や魔王を筆頭に背が高いものが多いのか、屋根の位置がリュウの知る家より倍近く高い。雰囲気的には江戸時代の色街の様。雨の中にもどこか華やいだ雰囲気が感じられた。


 雨のせいで人通りは少ないが、軒先に立つ魔族や、フードを目深に被った魔族が小走りで通りを駆けていた。フードで判別は付きにくいが、ウサギ頭の魔族や、猫頭の魔族、イタチ頭の魔族、中には龍頭の魔族もいるし、何の動物か判断の付かない魔族も数多いた。


 そして、おばちゃんっぽい狸が村に入ってすぐの家の軒先でリュウ達を手招きした。

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